反政府紙記者が「頑張ります!」


 記録的な意味も込めて、25日の記者会見の内容をレビューしておきたい。私も質問した。もっとも明晰な発言をしたのは、小森陽一(東大教授)だ。朴裕河の博士論文の審査を担当した因縁があり、この日も『帝国の慰安婦』を読み返した上で、会見に出席したという。「韓国言論の奮起を」促した若宮に対して、反政府紙のハンギョレ支局長が「頑張ります」と答えたのが、新聞ギョーカイ的には面白かった。
「朴裕河氏の起訴に対する抗議声明」記者会見(下川正晴撮影)

「朴裕河氏の起訴に対する抗議声明」記者会見

(11月25日午後3時〜、日本プレスセンター会議室)

出席者=若宮啓文(朝日新聞元主筆)上野千鶴子(東京大学名誉教授)中沢けい(法政大学教授、作家)小森陽一(東京大学教授)安尾芳典(共同通信客員論説委員)

若宮: 冒頭挨拶(司会者を兼ねる)
上野: 声明全文を朗読。

小森:「帝国の慰安婦」に、虚偽の事実は見当たらない。以下の3点を述べたい。①韓国検察は一部の表現を全文から切り離し、自らの解釈の枠に当てはめて、著者が意味していない内容を恣意的に読み取り、著者を傷つけようとしている。これはフレームアップに他ならない。②著書は冒頭から文末まで、有機的で多義的な意識をつないで表現した。文学的かつ歴史学的な著作である。韓国検察は本文の一部分を切り取って起訴した。抗議したい。③「虚偽の事実」という検察の認定が、検察官の責任ある判断なのか疑わしい。学問的見識に依拠したと思えない。韓国社会に流通している根拠薄弱な言説や、パク・クネ政権の言説に追従しているのではないか。

上野:(慰安婦問題は)占領地における状況、植民地における状況に多様性があり、これが議論の混乱を招いている。私は彼女の主張にすべて賛同している訳ではない。しかし、書物が法廷で裁かれることに違和感がある。個人を特定した訳でもないのに、法の裁きに訴えるのは理解しがたい。

若宮:ここに来ている者は、韓国に愛情を持ち、なんとか慰安婦問題が解決してほしいと思っている。いても立ってもおられない気持ちだ。

下川:3つお伺いしたい。(1)声明には《同書は河野談話を・・高く評価し》とあるが、当該ページを示してほしい(2)声明の文末近くに《韓国の健全な世論が再び動き出すことを強く期待したい》とあるが、今回、韓国人に声明への賛同を求めなかったのか。(3)起訴について日本の主要紙が社説で批判したようだが、韓国のマスコミはどうなっているのか?

小森:『帝国の慰安婦』235ページに言及してある。

若宮:日韓共同で抗議声明を出すことも検討したが、今回は日本で先行して行なうことにした。韓国でも呼応してほしい。韓国紙は社説で書いていない。

ハンギョレ新聞東京支局長(日本語で):表現の自由をめぐって、いま韓国では「国定教科書問題」「産経支局長の裁判」そして今回の「朴裕河氏の起訴」という3つの問題がある。今回の問題をめぐっては、韓国のリベラルと、日本のリベラルの考え方の差が余りに大きい。日本には法的責任はないという(日本側の)主張は問題だ。

上野:マスター・ナラティブ(支配的な考え方)のもとで、多様な考えが表現されにくい。権力が特定の考えを強制するのは、あってはならないことだ。そういう深い憂慮が、今回の抗議声明に集まった。著書は、日本に責任がないとは言っていない。植民地支配について、これほど強く批判した本はない。

若宮:韓国からも権力が罰するのはイカンという声が出て来てほしい。

ハンギョレ支局長:頑張ります!