我が国の営業秘密保守に残る課題


 わが国は、営業秘密を刑事罰の対象にすることに、かつては極めて不熱心だった。刑事罰が法定されたのは2003年のことであり、それも実効的なものにはほど遠かった。新日鐵住金の事件が民事訴訟のみで終始したのも、元従業員による秘密漏洩のほとんどが刑事罰規定を導入する前に行われたことによる。しかし、米国や韓国に比して遅れていたわが国の法制度も、今年7月の不正競争防止法改正によって、飛躍的に強化された。取り締まりのための法律に関しては、米国の経済スパイ法と、もはやあまり遜色はない。

 今後の課題としては、更に関係法令を整え、実行面を強化することが挙げられる。米国では、おとり捜査が広く認められるなど、営業秘密侵害は、麻薬犯罪並みに扱われる。窃取を共謀しただけで、実行に着手しなくとも、犯罪になる。司法取引の対象にもなる。営業秘密侵害罪は、普通の刑事犯と違い、自白はまったく期待できないから、おとり捜査や司法取引を法改正で加え、捜査手法を転換することも必要であろう。何より、わが国の当局にFBI並みの働きを期待するには、組織・人員・予算の面でも、同程度のテコ入れが必要だろう。

 和解でかなりの部分を取り返したとはいえ、新日鉄住金の被った損害は、一千億円を軽く超えると推計されている。ポスコから中国に流れた秘密が元に戻ることもない。それによって、どれほどの雇用が日本から失われたか、それによって年間でどれだけの人が迷惑をし、人生を狂わされたか。関連しているものを考えていくと計り知れない。第二、第三の新日鉄が出ないよう、関係者の努力が待たれている。