これに対し公明党は、「給付を受ける側が自治体で申請手続きをする必要がある。税率8%への引き上げ時で、実際に実施された簡素な給付措置の申請率は、横浜市で66.1%(14年度実績)など3、4割の対象者が実際に給付を受けていない。」(注2)と反対している。しかし、申請率がその時低かったからこれからも低いままとは限らないし、制度が周知徹底さればおのずと申請率は高くなるだろう。実際カナダでは、高校卒業までに税制について学ぶという。カナダ方式の優れているところは、奨学金や少子化対策にも応用できる点だ。また、所得の捕捉だが、マイナンバーが導入された今、この懸念も払しょくされている。

 また、2点目の税収減であるが、あれほど税収中立にこだわる財務省が今回あっさりと「軽減税率」を飲んだのも奇怪だ。財源が6,000億以上も足りないというのに、だ。景気回復による税収増に期待、などという話が出てくること自体信じがたい。空手形そのものではないか。膨れ上がる社会保障に充てる貴重な財源を減らし、その結果財政健全化の道も遠のく愚策に政府与党がまい進し、早々に「給付付き税額控除」を葬り去った理由は、経済合理性以外にある、とみるのが自然である。

 それは、来年夏の参院選対策に他ならない。公明党の選挙協力が必要な自民党にとって最初から結論ありきだった。振り返ってみるとまるで出来レースだ。財務省が9月初めに出した給付案に読売新聞は反対の大キャンペーンを張った。さっさと給付案をひっこめたあたり、財務省も官邸の顔色を見たか、もしくは最初から言い含められていた可能性すら感じる。
軽減税率の対象品目について合意し、記者会見する自民党の谷垣禎一幹事長(左)と公明党の井上義久幹事長=12月12日、東京都(長尾みなみ撮影)
 こうして世論は一気に給付案反対に傾き、全員野球で「軽減税率」賛成の空気が醸成された。後は一気に対象品目の線引きをどうするか、という議論に矮小化され、「軽減税率」反対論は一部のウェブメディアに掲載されるのみだった。そして、「軽減税率」の対象にしっかりと新聞も入ったのだ。つまり、最初から「軽減税率」ありきだったのだ。官邸、与党、財務省、新聞業界すべてが、である。「四方良し」、ということなのだろうが、国民にとっては全くもって「良くない」政策はこうした決まった。

 筆者が問題とするのは、新聞は最初から「給付案」反対だったとしても、テレビがそれを全く批判しなかったことだ。現在対象品目の線引きなどを面白おかしく報道し、毎度のことだが本質に全く迫らなかった。そもそも2017年4月に消費税率を引き上げることが出来るのか、といった議論もなかった。景気が後退していれば、2%引き上げなど出来るはずもなく、さすれば「軽減税率」もなくなる道理だ。そこまで考えて安倍政権が今回「軽減税率」を決めたなら、あっぱれと言うほかはないが、国民にしてみれば選挙対策の茶番に付き合わされただけで、いい迷惑どころか、怒らねばいけないところだ。

 消費税増税は少子高齢化による膨大な社会保障費負担を軽減するために必須のものだ。安倍総理は2014年11月、総選挙の前、消費税再増税の延期を訴える記者会見でこう言い切った「消費税の引き上げは、我が国の世界に誇るべき社会保障制度を次世代に引き渡し、そして、子育て支援を充実させていくために必要です。」さらに続けて、「財政再建の旗を降ろすことは決してありません。国際社会において、我が国への信頼を確保しなければなりません」と。

 この決意はどこへ行ったのか。選挙の為に税をもてあそぶ政府・与党を批判しないマスメディアには猛省を促したい。

(注1)「消費税の社会保障目的税化」という財政規律」 http://web.econ.keio.ac.jp/staff/tdoi/c200511_2.pdf
(注2)公明新聞 2015年11月6日 軽減税率は「給付」に勝る https://www.komei.or.jp/news/detail/20151106_18433