天に唾するに等しい


 この議員によると慰安婦だった女性への公的救援の方策については韓国国防省が肯定的に検討しているという。ただ国による法整備などの包括的な動きはまだ始まっていない。

「米軍慰安婦」問題で救援のための法的整備を進めるためには、国が「米軍慰安婦」の制度を維持、管理してきたことを認めなくてはならず、最終的には解決できなかった歴代の政権が責任を認定して謝罪し、賠償するということになる。

 ただ、それは同時に韓国社会が韓国現代史の・恥ずかしい裏面・を直視することになる。しかも朴槿恵大統領の父、朴正熙元大統領の独裁政権への批判につながりかねないというリスクを発掘することでもあった。

 野党側は2012年10月26日の質疑では、責任を強く追及するところまでは踏み込まなかったが、朴政権誕生後の2013年11月6日、国会の国政監査の場でこの問題を再び取り上げた。

朴正熙大統領の直筆署名文書の存在


 2013年11月6日、国会国政監査で野党議員がある文書を示しながら質問を切り出した。

 「基地村における売春が、合法というレベルを超えて国家が非常に組織的に主導していたという証言と証拠があります」

 文書は、野党議員が、国立公文書館に相当する国家記録院の大統領記録館から特別に取り寄せたもので、メディアも含めて一般には非公開の文書であった。

 文書は「基地村浄化対策」と題され、右側上段に1977年5月2日付で当時の朴正熙大統領が直筆署名したものだった。

 そこには、当時、「米軍慰安婦」が居住して売春をしていた基地村が62カ所あり、売春をしていた女性が9935人いたという記載があった。

 議員「淪落女性の専用アパート建設問題、性病撲滅、そして周辺整備、生活用水(確保)の項目がある。計画で予算が未確保の場合は、(朴正熙大統領)閣下特別資金から支援措置すると記載されている。特別支援の所要額が2億7600万ウォンなのですが、閣下留保分の特別基金から支援措置するというふうに記されています。周辺の市、東豆川、楊州、平澤、坡州、抱川、高陽の各市の条例の改正案には、『慰安婦を検診し、国連軍の駐屯地域の慰安婦のうち性病保菌者を検診で割り出し、収容治療、保健及び教養教育を実施する』といった文句があります」

 《野党議員はこの文書を示すことで、朴正熙政権が米軍相手の売春制度を維持・管理していたと主張。さらに、女性家族相に対し、基地村に国が関与していたかどうかを追及する》

 野党議員「前任の女性家族相は、基地村の女性らへの実態調査を検討すると答えています」

 女性家族相「売春被害者の女性に対するリハビリ支援をしています」

 野党議員「来年には、必ず実態調査、研究調査事業を行わなければならないと思います」

 《国による調査対応の確約を促す議員に対し、女性家族相は資料が作成された過程を説明。国家による売春制度の管理ではなく、あくまでも「売春被害者」に対する措置である点を強調するが…》

 女性家族相「70年代の(基地村浄化)対策に関してはこの(基地村浄化対策の)資料以外に資料がなく、流れを把握しきれませんが、淪落女性に関しては淪落行為禁止法に基づき、違法であるという前提の下でリハビリ、カウンセリング対策と専用アパート建設、つまり淪落女性の被害支援という視点で、その文献が作成されたものと考えられます。ただ、ご指摘があったとおり検証作業を行っていこうと思います」

 議員「基地村浄化対策に国が関与したという事実そのものを否定するのですか」

 女性家族相「いいえ、そういうわけでは…」

 議員「淪落行為防止法があるにもかかわらず(朴正熙政権下の)国が基地村浄化対策として(売春を管理する目的で)大統領の署名まであるこのような対策を講じたのではないのですか」

 女性家族相「違法な売春に関して、浄化整備計画の一環ではなかったかと思います」

 議員「整合性がない回答ですね」

 《韓国政府は「米軍慰安婦」について、一義的にはあくまでも「売春行為」をなした人である点を譲ろうとしない。政府の救済策はその「被害者」という立場の上に立って進めるものとの意向がうかがえる》


既に禁書化された関連資料も


 実は、「米軍慰安婦」に関して国家の責任を問う動きは今回の訴訟の前からあった。

 2002年に「韓国軍慰安婦」問題を韓国で初めて公開した女性性搾取問題の研究者、金貴玉漢城大副教授は直接の資料調査などの結果、朴正熙政権が「米軍慰安婦」に直接関わっていた事実を提示している。また、2013年には「米軍慰安婦基地村の隠された事実」が出版された。そこには次のような記述がある。

 「(1961年に朴正熙元大統領らが起こした)5・16クーデター直後、米軍との友好な関係の維持が重要だと判断した『国家再建最高会議』は、米軍駐屯地の実態調査を実施し、関係省庁に『慰安婦の教養の向上と保健診療所の拡大措置』を含む主要措置事項を指示した。関係法令を再整備し、慰安婦登録と教養を実施し、保健所の性病検診を強化し収容所を設置するというものだった。しかし、米軍慰安婦への性病統制に困難を覚えていた米軍当局は、この措置だけでは満足せず結局、米国は70年代はじめ、韓国政府から積極的な基地村管理政策を引き出すことに成功した。(当時取られた)在韓米軍2万人削減計画は、朴正熙政権を危機に陥れた。撤収しようとする米軍を留めておくために、朴政権は必死に取り組んだが、そのうち最重要な戦略が『(性病検査徹底などの)基地村浄化事業』だった。政権は莫大な金を投入して各地の基地村に性病診療所を設置、米軍の『慰安施設』を再整備した」

 金副教授は、同書によせた文の中で2002年に韓国軍慰安婦問題を世に問うた直後、韓国政府は金氏の研究活動を自粛させたり、国防省所蔵の慰安婦政策に関する資料を禁書化したりしたと明かしている。金副教授はその理由について、日本統治時代の慰安婦問題を追及する韓国政府が軍隊に「慰安婦」を運営していたことが世界に知られれば、日本統治時代の慰安婦について『日本政府を追及する資格などない』と、日本の極右勢力が韓国政府を非難すると考えたためではないかと指摘している。

 韓国の抱える性搾取の闇は深い。