日本の有人宇宙プログラム


 では、日本人が火星に降り立つ、という可能性についてはどうだろうか?

 日本人が火星に降り立つということであれば、日本の有人宇宙プログラムについて少し振り返っておくことが必要だろう。

 日本の有人宇宙開発は、アメリカとの戦略的な協力の中で1980年代から始まった。1985年には当時の宇宙開発事業団の宇宙飛行士として、毛利衛、向井千秋、土井隆雄の3名が選定され、1992年には毛利衛宇宙飛行士がスペースシャトル「エンデバー」により宇宙飛行を行った。

 それ以来、日本の有人宇宙プログラムは着実に進行している。とりわけ国際宇宙ステーション建設が本格化した2000年以降は、日本が国際宇宙ステーションの建設に積極的に関わるため、宇宙飛行士がスペースシャトルで頻繁に宇宙へ向かうという形になっている。これは、日本が国際宇宙ステーションに独自の実験棟「きぼう」を設置していることが大きい。

 国際宇宙ステーションの実験棟はアメリカ、ロシア、ヨーロッパと日本が持っている。「きぼう」は国際宇宙ステーションの中でも最大の大きさを持ち、また宇宙空間に直接さらされた「暴露部」という仕掛けを持つなど、ユニークな特徴がある。これを活かした実験や、小型衛星の放出など、様々な活動が行われている。

 2015年末現在、JAXA所属の宇宙飛行士は7名おり、国際宇宙ステーションへの長期滞在を継続して行っている。最近では2015年7月にロシアの「ソユーズ」宇宙線で国際宇宙ステーションへ向かい、約5ヶ月間の長期滞在の後12月に地球に帰還した油井亀美也宇宙飛行士が記憶に新しいところである。

 このように、日本の有人宇宙開発は、日本独自の有人宇宙船こそ持っていないものの、宇宙の住居(国際宇宙ステーション及び「きぼう」)、ものの輸送手段(「こうのとり」と呼ばれる大型補給機)、そして宇宙飛行士そのものと、人間の輸送手段以外はすべて揃っているという点で、他国と決して引けを取らないレベルになっている。輸送手段についても、現在使い捨ての形で、国際宇宙ステーションへの物資輸送後は大気圏で燃やされる「こうのとり」を帰還可能にする補給機「HTV-R」の検討が進められている。

 将来的にはこのHTV-Rが日本独自の有人宇宙船へ発展する可能性も十分にある。

厳しい状況にある日本の有人宇宙開発


 さて、このように書いていくと、日本の有人宇宙開発は順風満帆のように思えるのだが、実のところ大きな問題を抱えている。その最大の問題は、「投じた予算に見合った成果が上がっているのか」という問題である。

 日本の宇宙予算は年間約3000億円となっている。この3000億円で、H-IIAロケットの打ち上げから有人宇宙開発、「はやぶさ」や「あかつき」などの科学衛星プログラム、地球観測衛星など、実に様々な計画をこなさなければならないのが今の日本の宇宙開発の姿である。

特に、有人宇宙開発は年間でその中の約400億円という、それ相当の割合を占める部分になっており、しかも国際的なプログラムに参加している以上、削ることができないという要素を持っている。

 一方、有人宇宙開発の成果となると、なかなか見えにくい。確かにJAXAの「きぼう・国際宇宙ステーション」のウェブサイトへ行くと、「きぼう」の成果が真っ先にうたわれており、そこにあるパンフレットでは、数多くの実験プロジェクトが実施され、成果を挙げていることが書かれている。
では、その成果はこれまで投入された予算に見合ったものなのだろうか。

 確かに科学的な側面からみると1つ1つは重要なものではあるだろう。しかし、国民の視線からみてみたときには、それが(いまであれ将来であれ)どのように役立つのかについてしっかりと理解できるとは今ひとつ言いがたい。宇宙開発において、投資が即成果に跳ね返るものではないということをよくわかっているつもりの私でも、「ではその実験の成果は私たちの生活にどのように役立つのですか?」といわれるとなかなか答えにくいところである。

 この11月、自民党は恒例の行政事業レビューを実施した。これは、旧・民主党政権時代の「事業仕分け」に似たものであり、行政の質、つまり投じたお金に対して十分なリターンがもたらされているかをチェックするものである。

 この中で、今回は国際宇宙ステーションがターゲットになった。新たに就任した河野太郎・行政改革担当大臣は、「国際宇宙ステーションに日本人が行って喜んでいるという時代は終わったのではないか」と厳しい見方を示した。

 これに対して、出席した若田光一宇宙飛行士は、これまで投じられた金額…報道によれば8000億円は、「将来への投資であり、必要な経費はしっかりと確保すべき」という意見を述べている。

 有人宇宙開発の問題点はまさにこの、巨額の費用が必要になるという点に集約される。無人ではなく、人間を宇宙に送り込むためには、命を守るためのさまざまなシステムが必要になり、また運ぶための宇宙船も大きなものが必要になる。大きくなれば開発費も高くなり、ロケットも大型のものが必要となればさらに金額はかさむ。海外に委託するにしてもその費用は決して安くない。

 一方で、それであれば使い捨ての無人ロケット・無人探査機で可能なのではないか、という意見もある。なぜ人間が行かなければいけないのか、という問いに関してはまだ誰もが完全に答えきれておらず、有人論・無人論はいまも宇宙開発関係者の間で盛んにたたかわされている。