科学だけではない、外交や経済の視点も


 このように、宇宙開発プロジェクトが巨大化、多国籍化していく中では、外交という視点も十分に取り入れ活用していくことが必要であろう。それは、やがてやってくる有人火星探査計画でも同様である。科学的な探査であれば無人探査機をそれこそ物量で大量に送り込むことも選択肢としてありうるが、人間がそこに立つことによって国威発揚、さらには政治的な連帯感を示せるとなれば意味は変わってくる。

 そこにはさらに、外交と表裏一体をなす安全保障という側面も忘れてはならない。

 科学技術の進展も確かに重要なのだが、それだけで、他の宇宙開発プログラムとは性質が異なる有人宇宙開発を進めようとすることはそもそも難しいということを、JAXAも政府も十分に認識する必要がある。

 あるいは、今後もJAXAが技術開発を中心で進めるとすれば、有人宇宙開発をそこから切り離し、外交や経済的な側面なども含めた形の別法人で進行させるということも考えられる。JAXAは宇宙技術の開発に特化し、有人宇宙開発は別側面を見据えた形で維持していく…そのようなシナリオも考えられる。

 また、経済的な側面も忘れてはならない。

 宇宙は将来的に経済的な意味でもフロンティアである。例えば、宇宙空間の天体に存在する資源を利用し、宇宙空間、あるいは将来的に地球上で資源として活用することも十分に考えられる。

 これは決して夢物語ではない。アメリカではすでに、小惑星の資源採掘を目指す複数の企業が積極的に活動を行っており、アメリカ政府やNASAもその活動を支援している。さらに、アメリカ政府はこのほど「2015年宇宙法」を制定し、アメリカ企業が宇宙で取得した資源についてはアメリカの所有物として認めることになった。このような法律が、宇宙の天体がすべての人類のものであると規定した宇宙条約と両立するものかどうかは法律専門家による議論が必要だが、すでに時代はここまで来ているのである。

イトカワのように大きな小惑星から岩石を採取する無人探査機の想像図(NASA提供・共同)
 各国がもし、アメリカの2015年宇宙法のような法律を制定し、「宇宙で自国企業が取得した資源は自国のもの」と宣言したらどうなるだろうか。仮にそれが宇宙条約に反するものであったとしても、それを止める手段はどの国も持たない。いわば早いもの勝ちである。

 日本が宇宙開発の技術、あるいは宇宙開発の潮流に乗り遅れ、そういった動きに背を向けて科学技術中心の宇宙開発に邁進しているとき、膨大な富を生む宇宙資源、あるいは他の宇宙開発の技術をみすみす他国に先に専有されるということは起こりうる。現に、アメリカの小惑星資源探査企業は、資源探査にもっとも適した小惑星として、日本の小惑星探査機「はやぶさ」が向かった小惑星イトカワを挙げているのである。

 科学技術中心の従来の考え方の延長での宇宙開発では、国の予算に大きく依存する枠組みから逃れられず、結果、予算全体も増えず、技術が向上することも難しい。

 宇宙開発を国の戦略産業と位置づけて育成し、全体のパイを増やす中で予算をふくらませ、その中で有人宇宙開発も重要技術として育成していくような枠組みが必要となるだろう。

 ロシアやアメリカは別格としても、日本の宇宙飛行士の数は世界でも上位に位置する。もしここで有人開発をあきらめてしまえば、まさにこれまでの巨額の投資は「水の泡」となってしまう。さらにいえば、将来的に見込める地球近傍領域での有人宇宙開発からも手を引くことになり、経済的なメリットも失われてしまう可能性がある。

 有人宇宙開発は経済という側面からも実際は重要なのだということを認識する必要がある。