作品に残る時代の刻印

 これにたいしては、エピソード番号によって内容的な前後関係が指定されているうえ、登場人物の世代的なつながり(たとえばエピソード1~3の主人公アナキンは、エピソード4~6の主人公ルークの父親にあたる)も決まっているのだから、製作順にとらわれることなく、物語の流れに沿ってゆけばいいという意見もあるに違いない。

 けれどもどんな作品であれ、つくられた時代の雰囲気と無縁ではない。〈三部作・その1〉は「1970年代後半~1980年代前半の作品」としての側面を持つし、〈三部作・その2〉は「1990年代末~2000年代半ばの作品」としての側面を持つ。以下、具体的に見ていこう。

 〈三部作・その1〉がスタートした1970年代後半、アメリカはベトナム戦争の失敗や、ウォーターゲート事件(1972年、当時の米大統領リチャード・ニクソンが起こした政治スキャンダル。ニクソンは1974年に辞任)などによる威信失墜を経て、本来のあり方に立ち戻ることをめざしていた。

(C) 2015Lucasfilm Ltd. & TM. All Rights Reserved
『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』 
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 ベトナム戦争当時、同国がしばしば「帝国主義的」と批判されたのを思えば、「邪悪な銀河帝国が、共和国の理想を信じる正義の反乱軍によって打倒される」という物語は、このような時代の風潮を寓話的に表現したものになる。事実、ジョージ・ルーカスの評伝「スカイウォーキング〈完全版〉」(デール・ポロック著、高貴準三監訳、ソニー・マガジンズ、1997年)によれば、銀河帝国を支配する「皇帝」の人物像は、ニクソンをモデルに構想されたのだ。

 同三部作のクライマックスとなる「ジェダイの帰還」では、エンドアという森林の惑星を占領した帝国軍が、原住民のゲリラ的抵抗の前に敗北するものの、「スカイウォーキング」はこれについても、「地獄の黙示録」(1979年のベトナム戦争映画)のルーカス版だと述べた。「地獄の黙示録」の監督はフランシス・コッポラだが、同作品はもともとルーカスが監督する予定になっていたのだから、この記述も決してコジツケではない。

 他方、〈三部作・その2〉がスタートした1990年代末は、アメリカが冷戦に勝利し、自由と民主主義の旗印のもと、世界全体を一極支配するかに見えた時期だった。まさに「繁栄を誇る共和国」というところだが、2001年の同時多発テロ、そして2003年のイラク戦争を契機として、アメリカの覇権は揺らぎ、威信もふたたび落ち始める。

 「繁栄を誇る銀河共和国が衰退、邪悪な銀河帝国へと変貌する」という物語も、時代の風潮を寓話的に表しているのである。「スター・ウォーズ」の世界では、「フォース」という超能力が大きな役割を果たすものの、このころのアメリカでは、テロリスト容疑者を拷問することが「フォースの悪用」にたとえられた。

 フォースを悪用する者は、「ダークサイド」(暗黒面)と呼ばれる怒りと憎しみの世界に堕ち、帝国派となってしまうのだから、これは「アメリカが帝国になる」と言うにひとしい。エピソード1の題名「ファントム・メナス」(見えざる脅威)が、テロリズムを想起させることも、関連して付け加えておこう。