赤化統一のため日本とアメリカを脅す

 2002年1月当時のジョージ・ブッシュ大統領は有名な悪の枢軸演説でこう語った。「このような国家(北朝鮮、イラン、イラク)と彼らのテロ同盟者たちは、悪の枢軸を形成しており、世界の平和を脅かすために武装を進めている。大量破壊兵器を入手しようとすることで、これらの政権は、深刻で日々高まる危険をもたらしている。彼らは、こうした兵器をテロリストに提供しかねず、そうなれば、テロリストに、彼らが抱く憎しみに見合う手段を与えることになる。彼らは、われわれの同盟国を攻撃したり、アメリカを脅そうとしかねない。こうした状況のもとで、無関心でいることは破滅的な犠牲をもたらすであろう」。ブッシュが警告した悪の枢軸がテロリストに核兵器を提供する危機が眼前に迫っている。

 その意味でこの10年間の米国とその同盟国である日本と韓国の対北朝鮮政策は大きく間違っていたことになる。どこから間違ったのか。北の核開発は体制の根幹である対南赤化戦略の一環であり、話し合いや経済支援では止めさせることはできない。いつでも独裁者本人と彼からの指令系統を攻撃できるという抑止力を担保しつつ、彼らが自前で準備できない資金や技術の流入を徹底的に断つ以外に開発を止める方法はないという単純な真理を、日米韓の政府と専門家が理解していなかった。

 まず、北朝鮮の3代世襲独裁政権が核ミサイル開発を続ける理由は何かという基本命題から考えておこう。彼らの核戦略について、私は20年以上、論争してきた。90年代初め北朝鮮の核開発が国際社会の争点となったとき、日米韓の多くの専門家や情報関係者は、外交交渉のカードとして開発しているふりをしている、実際は核武装を目指していない、などと主張した。いわく、「合理的に考えれば核武装を強行するより中国型の改革開放政策を採るしかない」「米国の強大な核戦力に対抗できるはずがない」「最貧国の北朝鮮に核ミサイルを実戦化する資金も技術も無い」「米国の衛星に見えるように施設を建設しているだけだ」などなどの議論が主流だった。

 ある著名な国際政治学者は1998年北朝鮮が日本を飛び越えるテポドン1ミサイルの発射実験を行ったとき、「これは日本とアメリカに対する求愛だ。助けて欲しいというメッセージだ。したがって、われわれは北朝鮮を追い込んではいけない、援助を続けるべきだ」などとコメントしていた。

 2000年代に入り、北朝鮮が核開発凍結を約束したジュネーブ合意を破って濃縮ウラニウム爆弾開発を秘密裏に続けていたことが明らかになり、また2006年、09年と核実験が続く中、さすがに北の核ミサイル開発は交渉のためのダミーだという説はほとんど姿を消した。だが、その後も北の核を「自衛のため」「体制を維持するため」「追い込まれて生き残るためのもので実際に使う危険は小さい」など説明する論者が多かった。

2012年12月、北朝鮮北西部・東倉里の西海衛星発射場から発射される事実上の長距離弾道ミサイル(共同)
2012年12月、北朝鮮北西部・東倉里の
西海衛星発射場から発射される事実上の
長距離弾道ミサイル(共同)
 一方で、北朝鮮は同族である韓国には核を使わないから北朝鮮の核の標的は日本であるという議論も出てきた。彼らが核の小型化に成功し、日本全土を射程に入れた核ミサイルを実戦配備すれば、日本は彼らの脅迫に応じざるを得ないとの危機感だった。

 たしかに、北朝鮮は核ミサイル開発を外交カードとして経済支援を得てきたし、体制擁護のためにも、日本を脅すためにも使うだろうが、それはあくまでも二義的三義的である。私は北朝鮮の核武装は第一義的には韓国を赤化併呑することを目標としていると主張し続けてきた。冒頭に引用した趙甲済氏の見解と一致している。

 いまでもはっきり覚えているが、1998年北朝鮮がテポドン1を発射したとき、私は当時韓国の空軍大学教授だった李チョルス氏に会いに行った。彼は1996年ミグ19に乗って韓国に亡命した元北朝鮮人民軍のパイロットだ。私は李元大尉に北朝鮮軍の戦略の中で核ミサイルはどの様な位置づけをされているのかと質問した。彼は私の顔をじろじろと見つめ、「あなたは本当に北朝鮮問題の専門家ですか。なぜ、このような基礎的なことを尋ねるのですか」といいながら次のように語った。

「自分たち北朝鮮軍人は士官学校に入ったときから現在まで、ずっと同じことを教わってきた。1950年に始まった第1次朝鮮戦争で勝てなかったのは在日米軍基地のせいだ。あのとき、奇襲攻撃は成功したが、在日米軍基地からの空爆と武器弾薬の補給、米軍精鋭部隊の派兵などのために半島全域の占領ができなかった。

 第2次朝鮮戦争で勝って半島全体を併呑するためには米本土から援軍がくるまで、1週間程度韓国内の韓国軍と米軍の基地だけでなく、在日米軍基地を使用不可能にすることが肝要だ。そのために、射程の長いミサイルを実戦配備している。また、人民軍偵察局や党の工作員による韓国と日本の基地へのテロ攻撃も準備している」

 彼はすでに1992年金正日が命じて北朝鮮人民軍は対南奇襲作戦計画を完成させていると話した。李元大尉の亡命の翌年、1997年に労働党幹部の黄長●(●は火へんに華)氏が亡命した。黄長●氏がその作戦計画について次のように詳しく証言している。

 1991年12月に最高司令官となった金正日は人民軍作戦組に1週間で韓国を占領する奇襲南侵作戦を立てよと命じ、翌92年にそれが完成した。金正日は作戦実行を金日成に提案したが、経済再建が先だと斥けられた。

 作戦の中身は、概略以下の通りだ。北朝鮮は石油も食糧も十分備蓄できていないから、韓国併呑戦争は短期決戦しかない。1週間で釜山まで占領する。まず、韓国内の米韓軍の主要基地を長距離砲、ロケット砲、スカッドミサイルなどで攻撃し、同時にレーダーに捕まりにくい木造のAN2機、潜水艦・潜水艇、トンネルを使って特殊部隊を南侵させて韓国内の基地を襲う。在日米軍基地にもミサイルと特殊部隊による直接攻撃をかける。

 同時に、米国にこれは民族内の問題であって米軍を介入させるな、また、日本に在日米軍基地から米軍の出撃を認めるな、それをしたら核ミサイル攻撃をするぞと脅すというのだ。韓国内に構築した地下組織を使い大規模な反米、反日暴動を起こしながら核ミサイルで脅せば、米国と日本の国民がなぜ、反米、反日の韓国のために自分たちが核攻撃の危険にさらされなければならないかと脅迫に応じる可能性があると彼らは見ている。

 金日成は1970年代、工作員を集めて「祖国統一問題は米国との戦いである。米国は2度の世界戦争に参戦しながら、1発も本土攻撃を受けていない。もし、われわれが1発でも撃ち込めば、彼らは慌てふためいて手を上げるに決まっている」と教示している。国民の被害に弱い民主国家の弱点を突こうという一種のテロ戦略だ。

 今回の核実験の詳細について現段階では情報が限られている。しかし、彼らが米国本土まで届く核ミサイルを開発するために、持てるだけの資金と人材を最優先でつぎ込んでいることだけは明白である。すでに北朝鮮はプルトニウムを相当量持っている。北朝鮮はプルトニウムを作れる寧辺の5000キロワットの原子炉を1986年から1994年までと2003年から2007年まで稼働した。同原子炉には一回に8000本の燃料棒が装填でき、使用済み燃料棒を再処理するとプルトニウムができる。その間、4回燃料棒が取り替えられ合計3万2000本の使用済み燃料棒が全量再処理された。恵谷治氏の推計によると、北朝鮮が生産したプルトニウムの総量は90キロから105キロだ。原爆1発に使われるプルトニウムは4~8キロで、2006年と2009年の実験で2発分が使われたので、今回の実験がウラン爆弾だとすると北朝鮮の持つプルトニウムは74~97キロ、原爆9~24発分となる。これだけでも先に見た奇襲南侵作戦の脅迫用には十分な量だ。その上、濃縮ウランが量産体制に入ったとしたら悪夢と言うしかない。