北の暴発・先制攻撃に対抗する「斬首作戦」

 韓国ではいま、独自核武装を求める声が高まっている。北朝鮮の核戦略が韓国の併呑を目指すものである以上、その危機感は当然だろう。わが国にとっても地政学的に、朝鮮半島全体が敵対勢力を手におちることは重大な危機となる。古代朝廷は白村江の戦いで新羅・唐連合軍に敗れた後、九州に防壁を築き防人を徴募して守りを固めた。元寇は高麗が元に敗れた後にやってきた。日清、日露の戦役は半島全体が反日勢力の手におちないようにするための国運をかけた戦いだった。朝鮮戦争を戦ったマッカーサー元帥は日本防衛のためには半島と旧満州の確保が必要だったと米議会で証言している。

 先に書いたように私は北朝鮮の核開発は在日米軍基地を使わせなくするために日本を脅迫することを目的にしていると主張し続けてきた。だから、その脅しに対していったいどの様に対処すべきか、考え続けてきた。10年前の2003年、東京財団の朝鮮問題プロジェクト論文で次のように書いた。

〈ここで我々が考えるべきことは、テロと闘う基本姿勢である。テロリズムの語源は「テラー」(恐れ)である。つまり、国際社会は自衛権の行使や集団的安全保障などでの武力行使を認めているが、その場合でも戦時国際法などのルールを課している。しかし、テロリストらは非武装の市民などを対象に組織的な武力行使を敢行し、相手を恐怖に陥れて自分たちの政治目的を達成しようとする。脅迫に屈してテロリストの要求を受け入れれば、第2、第3の要求が来るだけで、問題の解決にはならない。テロを実行すれば、数百倍の実力行使で報復するぞという強い意志を示してテロリストの要求を退けること以外に、テロに勝つ方法はない。ペルー大使館占拠事件でゲリラらが米国軍特殊部隊の出動準備という報道があった直後、米国人人質をいち早く解放したことは、まさにその典型的例だ。

水爆実験の実施を発表する朝鮮中央テレビの映像を伝える大型モニター=6日、大阪・道頓堀
水爆実験の実施を発表する朝鮮中央
テレビの映像を伝える大型モニター
=6日、大阪・道頓堀
 たとえ、金正日が数発の核ミサイルをすでに持っているとしても、日本、韓国が軍事同盟を結んでいるアメリカは膨大な核兵器体系を持っている。金正日政権が実際暴発カードを使う、すなわちアメリカ本土を攻撃すればもちろんのこと、日本、韓国を攻撃しても、アメリカから壊滅的な報復攻撃を受ける。特に、暴発を命令した金正日はかならず除去されるという緊張関係が成立していれば、金正日は暴発カードを使えない。

 したがって、日米同盟強化こそが暴発カードへの対抗策となる。そのためには集団的自衛権行使を可能にする憲法解釈の正常化を早急に実現すべきだ〉

 北朝鮮の核の脅しに対する抑止は日米同盟と韓米同盟の強化によって独裁者をいつでも殺すことができるという状況を作ることだ。この考えは今も全く変わっていない。韓国の軍事戦略研究家である権泰栄博士は2008年に出版した著書『21世紀軍事革新と未来戦』で「暴発を命令した金正日はかならず除去されるという緊張関係」という私の考え方をより緻密に展開して「先制攻撃」を含む積極的、予防的、抑制的防衛戦略としての「斬首作戦」を提唱している。

 趙甲済氏が権博士の戦略を分かりやすく紹介しているのでそれを引用する。

〈権博士は、絶対に北韓軍に奇襲を許してはいけないという点を幾度も強調した。

1.北側は核兵器、化学生物武器、そして長射砲など長距離奇襲・打撃能力を保有している。

2.首都圏に人口の半分、国富の70%以上が集中している上、休戦ラインと隣接した枹川、議政府、高揚地域が急激に開発された。したがって、奇襲された時退く空間がない。後退してから反撃作戦で勝利しても首都圏の荒廃で実益がない。

3.したがって、過去のように敵に領土を譲歩した後反撃して失地を回復する防衛概念から脱して、領土の外で短期間内に決定的に勝利できる能力を誇示することで、戦争を事前に予防・抑制する防衛概念の採択が不可避だ。このような抑制および予防次元の防衛(Preventive Defense)ができるためには、過去の「守勢-消極」防衛から、「攻勢-積極防衛」へ転換し、「先制奇襲的攻撃/打撃(Preemptive Surprise Attack/Strike)」も必要時は許すという「威厳性」を持たねばならない。

4.防衛の目標と水準を、「積極、予防、抑制防衛」へと格上させるためには、軍事力を先端情報技術軍へと脱皮させねばならず、多くの予算が必要だ。

 韓国軍は、先制攻撃の概念を発展させるため、ひとまず戦争が起きれば敵の指揮部を集中打撃する「斬首作戦」のための新武器開発にお金を使い、先端NCW(Network-Centric Warfare)戦力も整えねばならない。

 NCWとは、敵陣に対するリアルタイムの情報と敵の指揮部と神経系統を同時並列的に打撃できる新武器体制の結合を意味する。敵の戦略重心拠点(Center of Gravity)を数百、数千箇所選定しておいて、開戦と同時にミサイル、戦闘機、誘導爆弾などで同時多発的攻撃を敢行すれば、瞬間的に敵の指揮体制が麻痺する。指揮体制が麻痺した軍隊は、頭が切られた胴になる。

 権博士は、このような攻撃的防御体制を構築しながら、金正日政権に対しても適当に知らせねばならないと主張する。独裁者は自らの安全を最優先に思う者らだから、戦争を企図しては自滅するということが分かれば、戦争を諦めるという論理からだ〉

 権博士の戦略はすでに一部、米韓軍によって採用されている。米韓軍は北朝鮮が奇襲南侵を企図した場合に備えた作戦計画5027を持っている。当然のことながらその内容は極秘であり、数年ごとに情勢の変化に合わせて改訂されている。1998年、「北朝鮮が攻撃してくる予兆があれば先制攻撃を加えて戦争を開始し、部隊を北進させ平壌を占領する」という同作戦計画の一部が意図的にリークされた。ワシントンポスト同年11月19日付けやファー・イースタン・エコノミック・レビュー12月3日号によると作戦計画は次の通りだ。

1 北朝鮮の攻撃があれば米韓軍は・兵力展開、・24時間以内にミサイルと爆撃で北朝鮮砲兵軍団攻撃、・平壌に向けて侵攻、・東西海岸から海兵隊上陸、・平壌占領、の5段階前面反攻に出る。

2 米軍は常に北朝鮮軍の動向を監視しており、攻撃開始の3日前には兆候をつかめる。

3 明白な兆候のある場合は、多連装ロケット砲と長距離砲と爆撃機などをはじめとする前線の軍事施設のすべてを徹底的に破壊する先制攻撃をなす。これは5段階のうちの・と・にあたる。

4 日本は日米防衛協力のための新ガイドラインに従い周辺事態法を発動して米軍の後方支援を行う。

 権博士の「斬首作戦」は3の部分に「敵の指揮部と神経系統を同時並列的に打撃」することを追加する。分かりやすく言うと金正恩ら最高権力者の所在地とそこからの通信手段を一挙に攻撃するのだ。独裁国家では独裁者の決済なしに軍は動けないから「指揮体制が麻痺した軍隊は、頭が切られた胴になる」。