燃料タンクへの攻撃効果


 海軍工廠や燃料タンク群への攻撃の提言については触れていない。計画者の間で幾らか考慮されたことはあるが、源田は兵器の分散使用は対効果で無駄になるとして、限られた兵器を向けることに反対した。数千マイル離れた連合艦隊司令部においても山本五十六、宇垣纏参謀長始め、太平洋艦隊のより完璧な殲滅を望んだようであるが、インフラは考慮外であった。

 現実に限られた兵器で海軍工廠や修理施設に決定的打撃を与えることはできなかったであろう。一部が破壊されてもハワイには陸上、海上に軍および民間を含めて優秀な工員を抱え極めて大きい修復能力を有していたので被害があっても短期間で回復可能であった。珊瑚海海戦で大損傷を受け修理に数カ月かかるとされた空母ヨークタウンを僅か三日で戦列に復帰させたことは好例である。

 燃料タンク群を破壊、炎上させる手段としては機銃掃射と爆弾がある。燃料タンクは燃料と屋根の間に蒸発した燃料が溜まり爆発する危険を避けるために屋根が燃料レベルまで下がる構造になっている。燃料タンクの外板は〇・七五インチから一・五インチの厚さで下にいくほど厚くなっている。日本の軍用機の標準装備は七・七㎜機銃である。零戦は二十㎜機関砲を二門、弾丸各六十発装備しているが飛行機のアルミ製の軽い外板で破裂するように設定されており燃料タンクの外板は貫徹できない。屋根に当たれば破裂して穴が開くだろうが、破片が貫いても燃料が発火するだけのエネルギーと酸素は供給されない。

 爆弾の場合、二百八十発の二百五十㎏爆弾ですべての爆弾がタンク群のエリア内に落下したとする。タンク外板の厚さを一インチとしてコンピュータシミュレーションすると一千回のトライアルで、九〇%のケースで二十二〜三十五タンクが直撃を受けて三タンクに破片が及ぶ。これは燃料タンクの四六%〜六九%、二十五万九千〜三十八万九千メータートンに相当する。各燃料タンクは全容量を受けられる土手で囲まれている。輻射熱が隣接するタンクに及ぶのは少なくとも一時間かかる。タンク群には火の拡散を防ぐため放水パイプが巡らされており、各タンクには防火泡沫システムが内蔵されている。燃えているタンクや土手内の燃料はポンプにより安全なタンクに移し替えることができた。攻撃時点では十〜十五ノットの風が吹いており風上のタンクが燃えればその煙で爆撃は困難になる。実際にはタンクに着火させるのは思うほど簡単ではない。湾岸戦争においてもミサイルの熱い破片がタンク内に入ったが発火しなかった。

 タンクの構造は簡単であり、破損したタンクの再建に必要な鉄鋼は約五千トンである。喪失した燃料補充に必要なタンカーは一カ月であれば十三〜二十隻、二カ月であれば七〜十隻、三カ月であれば五〜七隻である。これは調達可能でありニミッツの判断は間違っていることになる。