中国が一方的に保有する交渉カード


 選挙後に注目されるのは、蔡英文政権の対中政策、そして習近平政権の出方である。実は「中国は交渉カードを大量に保有するが、台湾は交渉カードをほとんどもたない」状態にある。中国の軍事力・政治力・経済力は圧倒的で、台湾に対する「アメ」も「ムチ」も用意しているが、台湾側には対抗できる手段は少ない。

 馬英九政権が発足した08年、台湾を訪れる中国人観光客は24万人に過ぎなかったが、14年にはなんと384万人を超えた。観光客のみならず、貿易も拡大した。13年の台湾から香港を含む中国へ向けた輸出額は08年と比べて約1・5倍にまで増加した。台湾の総輸出に占める中国の比率は4割を占め高止まりしている。

 一方、中国にとっては、台湾との貿易は、中国全体のわずか4・6%に過ぎない。中台の経済格差は年々拡大し、GDPは20倍もの開きがある。台湾経済にとって中国は欠かせないが、中国経済にとって台湾は必ずしも必要でないという一方的な関係にある。中国にとって、観光や貿易の蛇口を閉めることはたやすい。民進党政権発足後、これまでの中台交流拡大戦略と逆行する政策を採ることも考えられる。

 また、中国大陸へ進出している台湾企業は多数存在し、大陸で用地取得や税制面などで様々な優遇を受けている。これも中国共産党の匙加減ひとつでどうにでもなる。

 11月7日に突如、史上初となる中台トップ会談が実現した。習近平国家主席と馬英九総統が握手を交わすシーンは日本でも驚きをもって報じられた。この会談を行った習近平側の意図については様々な憶測を呼んでいるが、民進党政権登場に備えて「国民党政権時代は首脳会談を行うなどして中国と良好な関係を築き、経済が好調だった」という台湾の民衆への「刷りこみ」をしておき、蔡英文に対し「一つの中国」を受け入れさえすれば良好な関係に戻れると迫る布石であろう。

 外交面では、中国は馬政権に「気遣い」をみせてきた。中華人民共和国と中華民国はそれぞれ世界各国に対し、どちらの国と国交を締結するかを迫ってきた。大多数の国は中華人民共和国と国交を締結し、台湾、つまり中華民国と国交を結んでいる国は、太平洋島嶼国や中南米など22の小国しかない。

 台湾の国交締結国に対し、中国はその国交を断絶させ、新たに自国と国交を結ぶ、ということを歴史的に繰り返してきたが、馬政権登場後、この動きを控えてきた。こうした「気遣い」も新政権が反中の姿勢を見せれば即座に見直し、台湾を国際的に孤立させる動きを加速させる可能性がある。

 胡錦濤国家主席時代は、民進党の支持基盤である台湾中南部の農村、漁村地域を取り込むため、中国の各省から大規模買い付け団を次々に派遣し、農産物や養殖魚を「爆買い」することをはじめた。主に余剰分を買い付けたのだが、これは農産物や水産物の価格下落防止に繋がるため、農家や水産業者に恩恵をもたらす政策と見られた。実は台湾で生産されている農産物はほとんど中国でも生産されていて、しかも安価であるが、それでも台湾での支持を得るために買い付けているのだ。