しかし、今回は、そんな既成概念を崩すような結果になりそうだ。民進党の蔡英文は現職ではなく、直近の台湾で民進党に何か大きな得点があるような問題が起きたわけではない。蔡英文は08年ごろの馬英九のようにカリスマ的に光を放っているわけでもない。では、いったいどうして民進党がここまで有利に戦いを進めているのか。自分たちを「台湾人」と考える人々の台湾アイデンティティーの成熟や中国への過度の接近を恐れる気持ち、14年のヒマワリ運動で大きく変わった人々の政治意識の影響など、選挙結果を見たうえで詳しく分析されるべきだろう。

 それにしても、現時点ではっきり言えるのは、本来は優勢である地力を持っているのにもかかわらず、その力を発揮できないでいる国民党の不甲斐なさである。まるで8年前の民進党を見ているような思いにとらわれてしまう。

 13年に起きた馬英九総統と立法院長の王金平との間で起きた「9月政争」と呼ばれる内紛に始まり、今日まで、国民党が一致団結して民進党に戦えるようなムードが作られることは一度もなかった。総統候補選びでは、本来出馬の候補となるべき朱立倫・党主席、呉敦義・副総統、王金平の大物3人がそれぞれ相手の出方をうかがったり、不利な戦況に怖じ気づいたりするなどして誰も声を上げず、予想外の形で、女性の洪秀柱・立法院副院長が候補に躍り出た。

 その洪秀柱が中国問題などで従来の国民党の路線を逸脱するほど中国寄りと取られる発言を連発すると、朱立倫は「洪おろし」を仕掛けて自らが候補に取って代わった。しかし、選挙戦は最終盤ともいえる10月に入っていたほか、朱立倫が選んだ副総統候補のスキャンダルが話題になったこともあって、劣勢を回復させる形にはほとんど至っていない。


中国の敗北宣言


 国民党の影の支援者である中国も完全に諦めムードで、何か選挙に影響を与えるような行動を取ることはあり得ないだろう。年末には高名な台湾研究者である上海東亜研究所の章念馳所長が「民進党が勝ったからといって、世界の終わりが来るわけではない。独立ができるわけでもなく、台湾は(経済的に)大陸にここまで依存しているのだから、必ず大陸に近づいてくるはずだ」と語っているが、一種の負け惜しみ、あるいは、敗北宣言に等しい。

 蔡英文も「現状維持」を掲げており、一定程度、馬英九政権の対中融和路線を引き継いでいく考えを示しているが、それにしても、中国から台湾に多くの「善意」を提供し続けた馬英九政権の8年間はいったい何だったのかと思わせるような負け方をすれば、経済によって台湾を引き寄せるという中国の従来の戦略は、抜本的な見直しを求められることは避けられないだろう。