台米日のライン強化


 かつて台湾は、アメリカの対中国戦略の重要な拠点で、台米日の関係は強力であった。しかし、中国経済の発展とともに、次第に台湾への関係は薄くなってきた。1995年~96年の第三次台湾海峡危機の時には、アメリカは空母を台湾沖に送るなど徹底的な台湾擁護の姿勢を示してきた。しかしそれ以降は、中国への配慮が目につくようになった。日本も同様だ。

 蔡英文氏は、日本に対しては親日的な発言をしており、日台関係は良好になると予想される。日本への訪問も何度かあり、要人とも会談をしたことがあるようで、さらに両国間関係は強化される。
山口市の元料亭「菜香亭」で、安倍首相の書の前に立つ来日中の台湾野党、民主進歩党の総統選候補者、蔡英文主席(左から2人目)と岸信夫衆院議員(左)=2015年10月7日(田中靖人撮影)
 台湾の問題は日台関係よりも台中関係、この舵取りの方が難題だ。台湾の政治情勢が民進党の安定政権となると想定できるし、日本も自民党の安定政権である。アメリカ大統領選挙も、私の予想では次は共和党候補者が大統領になると予想している。さすがにトランプ氏ではないだろうが、その他の有力候補も中国に厳しい姿勢を示している。となると、アメリカ=日本=台湾の対中国トライアングルができあがる。

 これは台湾の民進党にとっては、「過ぎた」対中包囲網となるかもしれない。あまりに反中路線が過ぎると、中国を刺激しすぎる可能性がある。1995年-96年の台湾海峡危機はまだ記憶に残っている。あの頃の中国とは比較にならないほど、今の中国は経済力も軍事力も格段に上だ。どのような行動にでるのか分からないところがある。

 蔡英文氏はアメリカのコーネル大学ロースクールで法学修士を取っているし、その後イギリスのロンドン・スクール・オブ・エコノミクスで法学博士を取得している。アメリカやヨーロッパのネットワークがある。また日本のネットワークもある。アメリカ=日本=台湾の連携がうまく機能し、中国と良好な関係となればいいのだが、そうはならない可能性の方が高いのが気がかりである。特に中国に距離をおく反中国的な台湾とみられると、中国が経済的な制裁も含めて様々な対応を行う可能性があるので、むしろ東アジアは不安定になるかもしれない。
 

クリーンでリベラルな政治


 蔡英文氏の人気の要因の一つはクリーンなイメージである。もともとが大学教授。アメリカとイギリスに留学の後、国立政治大学及び東呉大学の教授に就任している。専門は国際経済法で、経済、法律、国際関係に関する専門的な知識をもっていることも強みである。台湾政治、台湾選挙の問題の一つは、収賄である。中国大陸ほどではないにしても、かなりの賄賂が求められる社会である。これが政治を歪めてきたとも言える。蔡英文氏のクリーンなイメージは、台湾のこうした政治文化を変革してくれるのではないかという期待がある。これは台湾がさらに発展をしていく上で重要なポイントとなるはずだ。

 台湾は中国の凄まじい経済発展に引きずられる部分も大きく、貧富の差の増大が社会問題化してきている。確かに全体としては経済成長したのであるが、貧富の差も大きくなり、貧困者を生み出した。特に若者の失業や貧困化への不満は強く、それが民進党の躍進につながった。民進党はこうした行き過ぎを批判してきた。また蔡英文氏は女性の視点からも平等な社会を目指すことを目標の一つにしている。どこまで現実化できるかはわからない部分が大きいが、これまでよりはリベラルな政治が展開されると思う。

 日本にとっては歓迎すべき展開ではある。しかしあまりに極端になると中国と台米日の溝を深め、危険な状態になる可能性もある。むしろ慎重に状況を見ながら関係を強めることが大切だ。過激に走らず、ゆっくりと関係強化を進めることが必要であろう。

 台湾との落ち着いた強い関係の構築は、不安定化する東アジアの平和と秩序を守る上で重要な役割を果たすだろう。今回の選挙結果が、そのためのプラスの要因として、アジアの新たな繁栄が築かれることを祈る。