国民の和解は遠い


 最初に確認すべきは、これは政府間の合意であって国民間の合意でも和解でもないということです。当たり前のことですが、重要な点です。

 韓国側は、これまでの常識からはとても解決できるとは思えない難題を抱え込みました。もちろん、日本側として、相手国が国内合意を取り付けられるかどうかまで心配して交渉する義理はありません。韓国の国内説得はどこまでも韓国の問題だからです。実際には、元慰安婦の方の説得も、慰安婦の方々を支援してきた対日強硬派の挺対協の説得も、少女像の撤去も、どれも一筋縄ではいかないでしょう。韓国の野党は当然批判のボルテージを上げてくるはずで、来年4月の国会議員選挙で与党が持ちこたえられるか注目されます。

 日本側の世論も微妙です。足下の合意に不満を表明している保守層のことではありません。低位で安定している対韓世論全般が、さらに悪化するのではないかと思います。なぜなら、今後、慰安婦問題は以下のように展開するだろうと予想するからです。

 今回の合意に韓国国民は拘束されませんから、韓国内はもちろん、米国や豪州など韓国系の住民を抱える国においては、これまでにも増して慰安婦問題がクローズアップされることでしょう。慰安婦像もどんどん建てられるはずです。

 また、日韓政府は、「国連等国際社会において、本問題について互いに非難・批判することは控える」ことに合意していますが、当然、私的な団体による問題提起はなくなりません。韓国政府も、慰安婦問題で日本政府を「批判」することはしないかもしれませんが、当然慰安婦問題を「記憶」し、「顕彰」するための活動は継続するはずです。

 今回の合意によって、日本社会には、今後、韓国(人)は慰安婦問題を持ち出さないという期待が生じているかもしれませんが、その期待はほぼ確実に裏切られる運命にあります。残念ながら、韓国国内に存在する強い反日世論は変わりませんから、反日運動は続きますし、日の丸が焼かれることも続くのです。韓国政府による対日批判は多少はトーンダウンするでしょうが、日本国民から見た慰安婦問題の取り上げられ方には大きな変化はないはずです。

 日韓関係については常々、国民に支持されない合意はもたないと申し上げてきました。悲観主義が過ぎるのかもしれませんが、数年後、あの時が日韓関係の転換点だったと振り返ることになるのか。国民の支持に根差さない「プロの妥協」がかえって国民同士の関係がこじらせないか、懸念を覚えるわけです。