次が、あさの夫である新次郎(玉木宏)である。この男の人物像が何とも面白い。江戸時代までの男性の多くは、女性に関して、「台所を中心に夫や家族を支え、常に2歩も3歩も引いた控えめな態度でいること」をよしとしていた。だが新次郎は、「女性はこうでなくてはならない」というステレオタイプな女性観の持ち主ではない。あさが旧来の女性の生き方からはみ出して、思い切り活動できるのも、実は新次郎のおかげだと言える。あの夫がいたからこそ起業もできたのだ。

 新次郎は常に、のんびり、のらくらしているが、リーダーとしての仕事をさせたら、きちんとこなせるだけの力量がある。それにも関わらず、自分は表に出ず、当然のように妻の仕事を応援しているところが侮れない。“頼りない”のではなく、あさが思う存分羽ばたける環境を整えてやれるだけの“度量がある”のだ。お転婆なあさは、孫悟空ならぬ新次郎の手のひらの上で飛び回っているのかもしれない。玉木宏が、そんな男をさらりと具現化している。

 もう一人、魅力的な脇役として五代友厚(ディーン・フジオカ)がいる。後に「近代大阪経済の父」と呼ばれることになる人物だ。五代がいることで、時代の動きを見せることだけでなく、あさと新次郎の心情にも膨らみが生まれた。フジオカという役者の出現もまた、このドラマの収穫だ。

ドラマを支えるもの


NHK連続テレビ小説「あさが来た」の新たな出演者が決まり、
記念撮影に応じる、(左から)瀬戸康史、波瑠、玉木宏、辻本
茂雄=2015年11月11日、NHK大阪放送局(撮影・白鳥恵)
 こうして見てくると、『あさが来た』の絶好調の裏には、以下のような要素があると言えるだろう。

1)幕末から明治へというこの国の激動期を、関西を舞台に描いていること。
2)女性実業家のパイオニアともいうべき実在の女性を、魅力的な主人公として設定したこと。
3)「びっくりぽん!」などの決め台詞も交え、全体が明るくテンポのいい脚本になっていること。
4)主演の波瑠をはじめ、吸引力のあるキャスティングがなされていること。

 しかも、『あさが来た』には、「女性の一代記」、「職業ドラマ」、そして「成長物語」という朝ドラの“王道”ともいうべき三要素がすべて込められている。まだ前半が終わったところではあるが、朝ドラの歴史の中で傑作の一本となるかもしれない。

 このドラマの第1回は、洋装のあさが、初の女子大(後の日本女子大学)設立を祝う式典の壇上に立つところから始まっていた。あの場面に到達するまでに、あさはまだまだ多くの試練を経なければならない。その過程だけでなく、出来れば女子大設立後のあさの人生も、しっかり見届けたいと思う。これから展開される、『あさが来た』の後半戦が楽しみだ。