足元をみられた欧州 詭弁にやられる米国の甘さ


 10月下旬の習氏の訪英は大成功だった。キャメロン首相の発表によると、習主席訪英中に決まった中国の対英投資案件の総額は約400億ポンド(約7兆4000億円)。さらに、習氏は、ロンドンに人民元建ての国際決済センターの特権を提供し、元建て国債の発行を表明した。これに応えて、キャメロン政権は「国際通貨元」支持を表明した。ドイツ、フランスなど残る欧州主要国も自国市場に元の国際決済業務の拡大を期待して、なだれを打つように元のSDR組み込みへの支持を表明した。

 米国はどうか。ルー米財務長官は3月時点では元のSDR認可には反対表明したが、習氏の訪米後の10月6日には、「IMFの条件が満たされれば、支持する」と表明した。6月の上海株暴落後の中国当局による市場統制や8月の元切り下げは金融市場自由化原則に逆行する。ところが、オバマ政権は態度を軟化させた。上海株式市場の統制は緊急措置であり、元切り下げについて「元の市場実勢に沿う改革の一環」とする北京の説明を大筋で受け入れたのだ。

 習政権は6月の上海株暴落以降、党・政府指令による経済支配を強化している。これだと、だれが見ても国際的に自由利用可能であるというSDR通貨認定条件に反するはずだが、IMFはそう見ない。フランス出身のラガルド専務理事は3月下旬の訪中時に、「元のSDR通貨承認は時間の問題だ」と習氏に約束している。IMFは8月、上海市場の統制を当面は容認すると同時に、元をより大きく市場実勢を反映させる改革案を示せば、元を来年9月からSDR通貨に認定してもよい、というシグナルを送った。市場原理とはおよそ無縁な小出しの自由化でよしとする、対中国だけのワシントンの二重基準である。

 習氏は9月訪米時、ワシントンの甘さにつけ入った。

「中国は輸出刺激のための切り下げはしない。元を市場原理により大きく委ねていく改革の方向性は変わらない」
「中国政府は市場安定策を講じて市場のパニックを抑制した。今や中国の株式市場は自律回復と自律調整の段階に達した」
「外貨準備は潤沢であり、国際的な基準では依然として高水準にある」
「人民元国際化に伴って、外貨準備が増減することは極めて正常であり、これに過剰反応する必要はない」

 中国伝統の白を黒と言いくるめてみせるレトリックである。8月11日の元切り下げは過剰設備の重圧にあえぐ国有企業が背後にあるが、4%台半ばの元安にとどめざるをえなかったのは、資本逃避が加速したためだ。元相場を市場実勢に反映させると言うなら、外国為替市場への介入を抑制すべきなのだが、実際には元買い介入によって元の暴落を食い止めるのに躍起となっている。株式市場は自律的に回復しているというが、当局が市場取引を制限しているために、上海株の売買代金は6月のピーク時の4分の1まで雌伏したままだ。

 外準減少が正常、というのも詭弁である。資金流出は加速し、元買い介入のために外準を大幅に取り崩す。国内の資金不足を背景に対外債務は膨張を続け、「高水準の外準」を大きく上回る。外準を支える対中投資の大半は香港経由であり、そのうちかなりは外資を装った中国の投資家で、ほとんどが党幹部に直結している。建前上は厳しい資本流出入規制を実施している中国で、特権を駆使する党幹部だけがその網の目をくぐれる。言い換えると、中国は党支配体制だからこそ資本逃避が慢性化する構造になっている。習氏が党総書記就任前の12年前半にわずかずつ人民元を低めに誘導すると、資本逃避が起きた。あわてて元を高目誘導したらデフレ圧力が高くなったので、14年前半には再び元安方向に修正したら、やはり資本逃避が再発する。

 景気の方は14年初めから停滞感が強くなる一方である。中国当局発表では14年は7%台半ば、15年も7%弱の実質成長を続けているが、モノの動きを忠実に反映する鉄道貨物輸送量は前年同期を下回り、以来マイナス幅は拡大するばかりである。その場合、金利を下げ、元安にするのが景気対策というものだが、すると資本逃避で国内資金が不足する。元のSDR通貨認定は、北京にとってまさに焦眉の急である。