軍事的な意義は空中給油だけ

 なぜなら法律上「乗船しての検査、確認」ができる船舶は「軍艦等を除く」。したがって北朝鮮軍の船舶は対象外。

 漁船に偽装した工作船も例外でない。なぜなら、法律上「当該船舶の停止を求め、船長等の承諾を得て」からしか、乗船検査できないからである。もちろん北朝鮮の船長が「承諾」するはずがない。

 北が停船の「求め」に応じない場合どうするか。法の規定は「これに応じるよう説得を行うこと」。ならば、「説得」に応じない場合どうすべきか。平和安全法制が許すのは以下のとおり。

「説得を行うため必要な限度において、当該船舶に対し、接近、追尾、伴走及び進路前方における待機を行うこと」

 たったこれだけ。「普通の国」の海軍なら許される警告射撃すら許されない。いやそれ以前に、海自は停船命令も出せない。

 もし編集部が許すなら「(笑)」と付記したいところである。実際、私が講演で分かりやすく右を説明すると、会場から失笑や爆笑が起こる。むろん、笑い話では済まされない。護憲派はこんなショボい内容なのに「戦争法案」とレッテルを貼り、「従来『非戦闘地域』とされてきた場所でも後方支援できるようになる」と危険性を煽った。

 当たり前だが、右の制約がもたらすリスクと実害は政府も承知している。ゆえに昨年来、法改正が検討されたが結局、実現できなかった。そもそも「国家安全保障基本法」の制定を主張してきた自民党が、護憲派の要求に譲歩を重ねた結果が、この有り様である。それに土壇場の与野党合意が止めを刺した。

 従来の「周辺事態」が「重要影響事態」に名前が変わるだけで中身に大差はない。大差はないが、小差はある。法改正で今後、実際に何が変わるのか。

 結論から言えば、今後は空中給油が可能となる。たとえば朝鮮半島有事で日本海に展開する空母機動部隊の艦載機に対し、航空自衛隊の空中給油機が、日本海上空で燃料補給(空中給油)を実施できる。

 航空戦力の特質を踏まえれば、以上の軍事的な意義は大きい。拙著で苦言を呈したとおり、本来なら護憲派の野党やマスコミは、空中給油の是非を論じるべきであった。

 もう一つ、従来の「周辺事態法」で許されなかったのが、米軍への弾薬提供である。それが今回の法改正で変わる(ただし武器の提供は引き続き不可)。

 拙著で「米軍への弾薬提供が可能になるなど、現行法制よりは多少ましだが、依然として抜本改正とは程遠い」と書いた。もし改訂版を出す機会があれば、「その弾薬提供ですら、土壇場の与野党合意により、『他国部隊の要員等の生命・身体を保護するために使用される弾薬に限定される』ことになった」と追記しなければなるまい。

 もはや軍事的な意義は小さい。たぶん米軍のニーズはないであろう。つまり与野党合意により、周辺事態法改正の軍事的な意義は空中給油だけとなった(その他、平和安全法制整備の意義としては、米軍のアセット防護や任務遂行型の武器使用が認められた点が大きいが、マスコミはこれもスルーした)。

 加えて、以下も合意された。

「大量破壊兵器やクラスター弾、劣化ウラン弾の輸送は行わないこと」

「駆け付け警護を行った場合には、速やかに国会に報告すること」

「180日ごとに国会に報告を行うこと」

 いずれも先の国会で審議された重要な論点である。加えて「国会関与の強化」も合意された。それなのに、なぜか護憲派は評価しない。それ以前にメディアが報道しない。「歯止めがかかった」とも評し得るが、「切れ目が増えた」とも評し得る。後者の立場からは、土壇場の与野党合意により、名実とも「切れ目のない安全保障法制」ではなくなったと評し得よう。