門田 現状、戦時において中国や韓国、台湾に自衛隊の救出機を出すのはそうとう困難ですからね。

櫻井 たとえば韓国は、日本の集団的自衛権によって最も恩恵を受ける国の1つです。にもかかわらず2015年9月、安全保障関連法が成立した直後に「日本政府が戦後一貫して維持してきた平和憲法の精神を堅持しながら地域の平和と安定に寄与する方向で、透明度をもって推進していく必要がある」(韓国外務省)と、あたかも朝鮮半島への日本の軍事介入を懸念するようなコメントを出しました。韓国政府もまた、自国民の生存という問題に対して真剣に向き合わなければならない、と思います。

友邦国の台湾を守る


櫻井 日本にとってとりわけ心配なのが、台湾の行方です。2016年1月に行なわれる総統選挙と立法院選挙で民進党が勝利を収めた場合、5月までの4カ月間に何も起きなければ、無事に民進党の政権ができます。しかし、このシナリオも、疑問符を付けようと思えば付けられる余地が少なからずあります。さらに台湾は、いまや見るも無残なほどに経済面での対中依存を深めてしまっている。加えて中台間には途方もない軍事力の格差があり、中国がこのアドバンテージを手放すことは絶対にありません。

 私たちが「難儀している相手を助けるのは当たり前」という立場に立つならば、日本の国益にも叶うやり方で、台湾という友邦国を守ることを考えていかなければなりません。

門田 台湾は日本の生命線ですからね。仮に1996年のような台湾海峡危機が勃発し、今度は台湾海峡が中国の支配下に置かれるような事態になれば、台湾の地政学的な位置付け上、南シナ海が中国の内海になってしまう。それこそわが国の「存立危機事態」に直結します。

櫻井 台湾を守るのは、何も台湾人のためだけではない。日本の存立に関わる死活問題という危機意識が必要です。

門田 では、日本は台湾に対して何ができるのか。現在のように法律や世論の手枷、足枷を嵌められている状況では、自衛隊は拱手傍観するしかない。エルトゥールル号と邦人救出の教訓はまさにこの点です。他国に一方的に救出してもらうだけ、恩に着るだけでは、日本人が生存することは難しいでしょうね。

櫻井 たとえば中国の台湾支配への対抗策として、アメリカは台湾関係法を定めています。1979年、アメリカが中国と国交を樹立して台湾との国交を断絶したとき、アジア地域を守る戦略上の観点から、アメリカが台湾に武器を供与し、軍事的に平和を脅かす勢力への台湾の軍事力行使を定めた法律です。

 ところが、2001年の「9・11」テロ後に問題が起きました。アメリカは対テロ作戦に際して中国の協力を得るため、台湾への武器輸出を滞らせたのです。中国は、アメリカが喉から手が出るほど欲しいイスラム過激派テロリストの情報と引き換えに、台湾に武器を売らないよう要求し、アメリカがこれを呑みました。結果として台湾の軍事力はこの10年で脆弱極まりないものになり、中台間の力の格差には絶望的な開きが生じました。

 わが国が取りうる対処はおのずと明らかです。すなわち日本版の台湾関係法を制定することです。自衛隊の派遣は難しいとしても、事実上、台湾の現状を維持するために軍事力を含めたバックアップを行なうことです。

 いま台湾の国民党と中国が互いに「92年合意」を口にしています。92年合意は、台湾と中国は「1つの中国」であり、台中双方がそのことを認めた、というものですが、当時、台湾総統だった李登輝氏はそんな合意はなかった、と明言しています。台湾を支えるという意味で、日本はこの「92年合意」があるという中国側の論理に乗ってはならないと思います。