──今のお話だと、日本もできる範囲で手は打ちつつある、と。

石塚
 ただ、最大のハードルは、再使用した場合に犯罪になってしまうことですね。先ほども言いましたようにドラッグ・コートの場合には再使用というのは、回復のためのひとつのプロセスだと見るので、再使用には刑罰以外のサンクションを科すことで、プログラムを継続できるように処理しています。しかし、日本では、保護観察中に陽性の反応が出たら、公務員である保護観察官は、通報の義務があるので警察通報する。これでは、プログラムを中止するために薬物検査をしていることになってしまいます。

 だから、一番の障害はここです。薬物依存が病気であることを認め、再使用は、回復するための一つのプロセスだという認識を社会が共有することが必要です。プログラムを続けている限りは、警察には通報しない。刑事上の罪は問わない。こういう条件さえ整えば、今の日本のシステムの中でも、ドラッグ・コート的なものは十分運用できます。

 とりわけ日本で一番使える可能性があるのは、検察が起訴するかしないかを判断するときです。日本は起訴便宜主義を取っているので、検察の起訴裁量が非常に広い。だから、起訴判断に際して、プログラムに参加することを約束し、これをきちんと守ることができたときには、起訴猶予処分にする。裁判所と検察庁がしっかり協議して、きちんとした基準とルールを作れば、十分できることだと思います。薬物事犯についてではありませんが、かつて、昭和20年代には、このような試みがなされていたようです。起訴猶予に際して、一定の条件を付し、条件が充たされた場合には起訴しない。しかし、戦後の民主化の流れの中で、司法の恣意的な運用をもたらす可能性があるということでやめることになったようです。たしかに、いくつか問題はありますが、要は、関係者のやる気と熱意です。

 もう一つ必要なことがあります。英米では、判決前に専門家による調査が行われます。アメリカでは保護観察官(プロベーション・オフィサー)がこれを担当します。日本では少年については、家庭裁判所の調査官が審判の前に調査をしています。警察官や検察官も捜査をしますが、被疑者・被告人に不利益な情報は集めてきますが、有利な情報を集めて裁判所に提出するようなことは皆無といっていいでしょう。彼らの仕事は刑事訴追ですから。当然といえば当然かもしれません。その人の処分を決めるに際して必要な情報をすべて集めることが必要なので、この種の専門調査官が判決前調査を行うシステムを構築する必要があります。