「海賊対策」で支援に実績


 まずは、各国の海上警備機関の人材育成と能力向上が課題だが、ここで重要になるのが日本の役割だ。先にも述べたように、中国は軍事力や自国の警備船の力を背景にしながらも必ずしもこれを表面に出さず、民間船を使うなどして、支配の既成事実を進めている。これまで「海賊対策」として、アジア各国の海上警備能力の向上を支援してきた我が国の役割に対する国際的な期待は大きくなっているのだ。

 日本の積極的関与のきっかけはマラッカ海峡における海賊事件だった。マラッカ海峡を中心とした東南アジア海域において海賊が多発し、問題になっていた1999年、日本人の船長、機関長と15人のフィリピン人の船員の乗った貨物船アロンドラレインボー号が海賊に襲撃され、積荷のアルミニュームインゴットを乗せたまま行方不明となる事件が起きた。アロンドラ号の17人の船員は、海賊により救命いかだに乗せられてマラッカ海峡に放置され、11日間漂流したうえ、通りかかったタイの漁船に救助されたが、この事件は日本人の生命財産を守るためには国際的な海洋安全施策が必要であることを教えたのだった。
マラッカ海峡で海賊の襲撃を受けたアロンドラ・レインボー号
 その後、日本が中心となり、海賊対策でアジア各国の海上警備機関が協力する枠組み構築へ動き出したのである。2000年、東京において海賊対策国際会議が開かれ、それに続き、東南アジア各国が持ち回りで海賊対策長官級会議、専門家会合などを開催し、情報の連携、共同訓練などを実現した。日本は、アジア各国で開催される会合の支援、フィリピンコーストガードの人材育成やマレーシアの海上警備機関「マレーシア海事法令執行庁」の創設サポートなど、各国の能力向上に貢献したのだ。

 アジアにおける海上警備協力の成果として、2009年には、アジア海賊対策地域協力協定(ReCAAP)が結ばれた。現在、この協定はアジア諸国のみならず、英国、米国、ノルウエー、オランダなどの国々が参加し、加盟国は20ヶ国に上っている。インドネシア、マレーシアは条約に加盟していないものの、オブザーバーとして協力関係にある。ReCAAPの締結は、アジア海域の凶悪な海賊事件を減少させるとともに、アジア各国の海上警備機関の相互連携を促進させる役目を果たした。この日本が中心に進められた海賊対策は、「マラッカモデル」と呼ばれ、国際的な海上警備協力の成功例として高く評価され、後年ソマリア海賊対策にも応用されている。

 こうした実績を踏まえ、アジア海域における海洋警備を中心とした安全保障体制の構築に寄与することが日本に求められているのだ。実際、日本はアジア各国の海上警備能力の向上を装備の面でも支援してきた。2008年、インドネシアに対し、海賊対策のため3隻の巡視船を供与したのを始めとして巡視船、巡視艇の供与を進めている。当初、武器輸出三原則に抵触するのではないかと議論されたが、2011年12月、「平和貢献、国際協力に伴う案件は、防御装備品の海外移転を可能とする」という当時の野田佳彦首相(民主党)の方針により武器輸出三原則が緩和され、巡視船供与は円滑化されることになった。平和安全保障法制の成立に反対した民主党だが、当時、海外において展開する安全保障協力に積極的であった。