悪いのは、緊張を高めた米軍?


 出生率はここでは論じないが、南シナ海に関する彼女の発言は誤解と不正に満ちている。

 まず前述のとおり南シナ海問題は日本の安全保障に直結している。加えて日本の命綱とも言われる海上交通路(SLOC・いわゆるシーレーン)上に位置する。あえて朝日記事を援用しよう。「日本の原油輸入量の約8割は中東から運ばれている。万が一、南シナ海で紛争が起きてタンカーが通過できない事態になれば、日本のエネルギー問題に発展する恐れがある」(十月二十八日付朝刊)。当然、日本との関係は死活的に重要である。「独自路線で日本らしい外交」と言うが、そもそも日本は独自の核抑止力を持たない。アメリカの「拡大抑止(核の傘)」の下で「独自路線」を掲げても滑稽千万。(核武装でもしない限り)日米協調路線を歩む以外に道はない。「南沙の問題を棚上げ」すれば、中国を一方的に利する。中国の主張に法的根拠はない。国際法を蹂躙して「目先のメリット」を求めるなど、卑怯な商人の所業であろう。

 総理総裁を目指す有力政治家にして、この始末。マスコミ報道はさらに酷い。東京キー局の地上波で、JL―2に言及した報道番組は一つもない。今回どう報じたか。

フィリピン・スービックの港に停泊する米海軍の補給艦(吉村英輝撮影)
フィリピン・スービックの港に停泊
する米海軍の補給艦(吉村英輝撮影)
 作戦実施を受けた十月二十七日のNHK「ニュース7」は「中国が南シナ海で人工島を造成している問題で、これに反対しているアメリカ政府は27日午前、中国が主権を主張する人工島から12カイリ以内の海域でアメリカ軍のイージス艦を航行させ、今後、米中間の緊張が高まることが予想されます」と報じた。同夜の「ニュースウオッチ9」も同様の報道に終始。中国の人工島を説明したうえで「これに対し『人工島は領海の基点にならない』とするアメリカ。中国の主張を認めないことを明確に示すため、今回この海域に入ったのです」と作戦目的を“解説”。続けて中国外務省報道官らの抗議を動画で紹介し「今後、中国との間で緊張が高まることが予想されます」と総括した。

 これではアメリカが勝手に「人工島は領海の基点にならない」と主張しているかのように聞こえる。(中国ではなく)米軍が緊張を高めたような印象を抱く。十月二十八日付「朝日新聞」朝刊記事のタイトルも「中国人工島に米が強硬策 緊張高まる」(朝日メルマガ)。なんとも巧妙な印象操作ではないか。

 驚いたのは十月二十九日放送のBS1(NHK)「キャッチ!世界の視点」である。豪ABCテレビのニュースを「イージス艦 中国の“領海”に侵入」(テロップ)と報じた。だが英語を聞くと、そうは言っていない。侵入とは「(他国の領土、他人の家など)立ち入るべきでない所に、無理にはいり込むこと」(『岩波国語辞典』)。国内でも犯罪を構成する(刑法130条)。米軍を犯罪者のごとく報じるのは不適切きわまる。日本の公共放送と違い、豪ABCは正しく「国際法で人工島に12カイリの領海は適用されません」と報じたが、NHKは「米中の軍事的緊張が高まる恐れがあります」と解説(?)し、ぶち壊した。

 NHKだけではない。十月二十七日放送の「あしたのニュース」(フジテレビ)も「アメリカは領海と認めていない」。十一月一日放送の「新報道2001」(同前)も司会者が「(アメリカは)中国が埋め立てた人工島を領海の基点とは認めないといったような姿勢を見せている」と解説した。

 他の民放はさらに酷い。十月二十七日放送の「ニュース23」(TBS)は「しばらく目が離せない。緊張状態が続く」(岸井成格アンカー)との解説(?)に終始。同夜のニュース「zero」(日本テレビ)に至っては、スポーツコーナーの後に短く触れ、村尾信尚MCが「新たな局面に入った」と解説(?)しただけ。翌二十八日放送の「スーパーJチャンネル」(テレビ朝日)は大谷昭宏コメンテーターが臨時国会を招集しない安倍政権を批判して一丁あがり。なんとも、お気楽な商売である。