米国の「仮想敵国」と見なされている日本


 とはいえ、日本がこのような体制を整えるのには、まだ何年もの時間がかかるであろうし、実際の作戦においては、米国などの同盟国や友好国の応援を借りることがきわめて重要だ。しかし場合によっては、そんな外国の協力を得られないケースが生じることがあることをも想定しておく必要がある。

 たとえば今後多くのインフラ開発や資源開発が行なわれるアフリカは、今日も引き続き、旧宗主国の欧州諸国の影響力が強く残る場所であり、 彼らは自分たちの「シマ」における日本の活動をよく思わない場合もありうる。

 一方の米国もまた、アフリカの豊富な資源を押さえるため、2007年にアメリカ・アフリカ軍(アフリコム)を創設、その戦略目標の一つは「アフリカの豊富な資源を第三国に独占的に支配させない」とされているが、そこで掲げられた第三国(すなわち「仮想敵国」)には、ロシアやインド、中国の次に日本が名指しされている。つまり米国は、アフリカの資源競争においては、日本といえども軍の力を使って排除すると宣言しているのだ。すると、現地で日米が資源権益をめぐって競合した場合、米側から明白な武力攻撃を加えられることはなくても、諜報組織などによる妨害工作が行なわれる可能性はあるということだ。
 たとえばアフリカ某国における巨額の開発案件の入札で、ある日本の大手企業が米系企業と激しく競り合い、ついにその案件受注に成功したとしよう。そして、同社の現地駐在幹部が、突然にして武装集団などに誘拐されるといった事態が発生した場合、そんな日本企業に煮え湯を飲まされ、巨額利権を失った米国が、それでも日本人の人質救出のために全力を投じてくれるはずだと信じて疑わない方がいたら、残念ながらそれは国際政治の現実に対して、あまりにナイーブだといわざるをえない。

 実際、イスラム過激派「ボコハラム」のいる地域の上空に常時無人機を飛ばし、その動向を把握している米軍は、彼らと戦うナイジェリア政府軍に対し、必要な情報をまったく提供していない。それどころか、戦車や装甲車を保有し、またヘリコプターで戦闘員と物資の空輸まで行なうボコハラムを前にして、完全に劣勢となった政府軍に対する武器弾薬の供給をも徹底的に邪魔してきた。

 またイラクの議会安全保障・国防委員長であるハキム・アルザメリ氏などは、同国に跋扈するISILに対して大量の武器弾薬を空輸する英米軍輸送機の存在を何度も指摘しており、なかにはイラク軍によって撃墜された英軍機さえあるとしている。あるいは、ジブチの自衛隊基地の売店にはかつて、中国のスパイかと疑われた日本語の堪能な仏人美女が働いていたそうだが、そんな売り子から自衛隊の内部情報がパリに流れる可能性もあるだろう。

 海外の前線では、こういった国家間の虚々実々の激しいやり取りが日常的に行なわれているのだが、一方の日本では、昨年7月には岸田外相が「紛争当事国の軍隊の構成員等で敵の権力内に陥ったもの」ではない自衛官は、仮に外地で拘束されても「ジュネーブ諸条約上にある捕虜の扱いを受けられない」という信じ難い国会答弁をしている。政府高官の平和ボケのおかげで、いざというときに酷い目に遭うのは自衛官たちだ。もしどこかの国の反政府組織の司令官が、自分の「領土」に不時着した自衛官を捕まえ、かつインターネットでこの政府答弁を知った場合、自衛隊や同盟を組む米軍の情報を取るためにも、捕われた隊員は徹底的に拷問されるだろう。なぜなら、当の日本政府が世界に向けて「捕まえた自衛官に対する人道的配慮は不要です」との「お墨付き」を与えているからだ。

 こんな平和ボケは政府だけではない。有事の際に救出される側である日本企業の危機意識もまだまだ低いのが現状であり、この点も早急に改善される必要がある。日本人の悪い癖として「喉元過ぎれば熱さ忘れる」というものがある。2013年のアルジェリア・テロ事件の後も、最初の数カ月こそ多くの海外進出企業が大騒ぎを演じたが、すぐにその大半が以前の平和ボケに回帰してしまった。

 ここ数年、外務省は企業向けの対テロ訓練などを開催し、そんな企業の危機意識の向上に努めているが、70年余も太平の世にあった大半のサラリーマンにとっては、自分が危険地帯への赴任を命じられるその日まで、テロリズムなどは引き続き映画のなかの世界に過ぎないのだろう。しかしこのままだと、次のテロ事件でも日本企業は再び多大な犠牲を払うことになるに違いない。