海外進出企業は元特殊部隊員を雇用すべし


 西アフリカで勤務していたころ、私は緊急脱出の際の安全を少しでも確保するため、懸命に現地人の言葉や習慣を覚え、部族の王族のみならず、実は重武装マフィア集団の幹部でもある地元青年同盟の連中と一緒にタバコを吸いながら冗談を飛ばし合い、時には彼らに外国のお土産を渡すなどして交流し、周辺の治安情報を収集する努力をした。当時地元では、「あの施設には、わが部族の言葉を話す変な日本人がいる」というのがちょっとした噂になったようで、多くの現地人が私を見て笑いながら手を振ってくれるようになったが、30万人はいるその部族との間で強い信頼関係を醸成すれば、これは自らが30万の兵に守られているのと同じだと考えていた。 

 こうした現場での試行錯誤から痛感したのは、海外進出企業は今後自社の危機管理担当者として、無線通信や衛生、サバイバル技術などの高度な危機管理スキルをもつ日本人の元特殊部隊員を積極的に採用すべきだ、ということであった。有能な元隊員に現地の物理的セキュリティ対策のみならず、イラクで自衛隊が証明した巧みな人間関係作りを通じて地元民に対する宣撫活動や情報収集活動(ヒューミント)を行なわせれば、有事の際には友好的な地元民の協力を得ながら、彼ら自身が現地に不慣れな救出部隊と交信し、その誘導さえをも行なうことさえできるからだ。こんな危機管理担当者が得た現場情報やネットワークを、自衛隊の特殊部隊とも普段から共有することができれば、海外で戦う日本人駐在員やその家族の安全は飛躍的に向上するであろう。 

 もちろん、これら危機管理要員には高い語学力が必要だが、それは自衛隊の教育でも徹底すればよい。いちばんいいのは、現役隊員を企業に出向させ、海外でさまざまな経験を積ませるということだが、とにかくわが国が誇る超一流の元特殊部隊員の再就職先が、道端で旗を振るガードマンやコンビニの店員などであってはならず、この種の人材を海外で活用することこそが、一企業の安全と利益確保のみならず、日本の繁栄にも大きく貢献するのだということを社会全体が強く認識すべきだ。餅は餅屋なのである。 

 軍事のみならず、文化や社会、経済分野にまで精通する強力な諜報機能を有する現代の特殊部隊は、歩兵や砲兵、戦車部隊といったこれまでの通常戦力に代わり、先進諸外国の外交国防政策における「戦略的資産」として今日ますます重要な役割を演じ始めている。こんな「新しい特殊作戦部隊」の重要性に日本政府がようやく気付き、その整備と強化に取り組むことで在外邦人の救出が名実共に可能となれば、わが企業戦士たちは海外でもっと安心して戦えるようになるに違いない。 

 つまり、リアリズムに基づいた自衛隊特殊部隊の「装備・諜報力の強化」と「地位の向上」、そして官民協力による「危機意識と現場力の強化」は、わが国の国益をかけた経済成長戦略の『要』なのである。

まるたに・はじめ 1974年生まれ。オーストラリア国立大学卒業。同大学院修士課程中退。オーストラリア国立戦争記念館の通訳翻訳者を皮切りに、長年、通訳翻訳業務に従事。現在は、講演や執筆活動、テレビ出演などもこなす、国際派ジャーナリストとして活躍中。著書に『なぜ「イスラム国」は日本人を殺したのか』(PHP研究所)、『学校が教えてくれない戦争の真実』(ハート出版)などがある。