家庭内で“文明の衝突”が


 28日には大英博物館に行った。ここにはパルテノン・ギャラリーという世界的に有名な大展示室がある。かつてギリシャのアクロポリス大神殿を飾っていた壮大な彫刻群で、どれもこれも芸術的価値がきわめて高い。大英帝国が、金力と武力と詐欺力(?)で切り取って、「合法的に」イギリスまで運んだものだ。

 朽木ゆり子氏の『パルテノン・スキャンダル』という本がある。当時、ギリシャはオスマン帝国領だったが、この本には、パルテノンの遺跡をイギリスに運ぶことに全力を注いだイギリスのトルコ大使、エルギンという外交官の一生が描かれている。また、大理石の彫刻をめぐる当時のイギリスとフランスの争奪戦や、ギリシャとイギリスのあいだでいまも続いているそれら遺跡の返還運動の経緯なども詳しい。すこぶる良い本だ。

 ただ、欠点はあった。この本を読んでからパルテノン・ギャラリーに行き、壮大な展示品のはざまに立った瞬間、ギリシャ人がこれを見たらどんな気がするだろうかなどという邪念に囚われ、大理石彫刻を素直に楽しめなくなってしまったのだ。

 そのあと見たバビロニアやアッシリアの遺跡展示物も同様。大きさといい、重さといい、半端ではない巨大な石の塊。大量の現地人をこき使って、切り取り、船に乗せたにちがいないなどと想像を逞(たくま)しくする。

「これが略奪でなければ何だろう。大英博物館が入場料無料なのは当たり前。いくら何でもギリシャ人やエジプト人から入場料は取れない!」

 そういえば昔、イラクに住んでいたころ、バビロンやニネヴェに行ったことがある。かつてバビロンにそびえ立っていたはずの壮大なイシュタル門は、現在、ベルリンのペルガモン博物館にある。1000tという膨大な数の欠片をすべて軍艦で運んできて、年月をかけて復元したものだ。当然、現地には、見るべきものは何も残っていなかった。

 一方、ニネヴェでは、遺跡はちゃんと残っていたが、去年、ISがそれを破壊している映像が流れた。あまりにも無念だ。ところが大英博物館のニネヴェの遺跡の前で夫は、「だから全部ヨーロッパにもってきておけばよかったのだ」といったのだ。

 一理あるかもしれないが、ヨーロッパ人の口からそれを聞くと、やはり素直には受け取れない。それに私は、ISの出現には、ヨーロッパ人の過去の蛮行や、直近の米英仏の軍事行動にも大いに責任があると思っているのである。そんなわけで、また少し立腹。わが家ではしばしば家庭内で〝文明の衝突〟が起こる。