「祖母の死」と冒涜の儀式


 Aが自ら転機としたのは、「祖母の死」である。どんな時でも味方で、優しく包んでくれた祖母の存在は、Aにとって絶対的なものだった。しかし、その死がすべてを暗転させた。

 Aは小学五年の時に経験した祖母の死をこう記述している。

〈眼の前にいるのは確かに僕が愛し、僕を愛してくれた祖母だった。冷たく固い、得体のしれない物体と化した、祖母だった。その口はもう二度と僕の名を呼ぶことはない。その手はもう二度と僕の頬を優しくつねってはくれない。

 自分の内部から何かがごっそりと削り取られたのを感じた。確かな消失感が、そこにあった。僕はこの時はっきりと悟った。「悲しみ」とは、「失う」ことなんだと〉

 祖母の死に対する衝撃と、その亡き祖母の部屋で知った電気按摩を用いた性の快楽。細かな描写は、読む側を引き込むに十分だ。

〈祖母の位牌の前に正座し、電源を入れ、振動の強さを中間に設定し、祖母の想い出と戯れるように、肩や腕や脚、頬や頭や喉に按摩器を押し当て、かつて祖母を癒したであろう心地よい振動に身を委ねた。

少年Aが収容されていた神戸少年鑑別所
少年Aが収容されていた神戸少年鑑別所
 何の気なしにペニスにも当ててみる。その時突然、身体じゅうを揺さぶっている異質の感覚を意識した。まだ包皮も剥けていないペニスが、痛みを伴いながらみるみる膨らんでくる。ペニスがそんなふうに大きくなるなんて知らなかった。僕は急に怖くなった。(略)僕は祖母の位牌の前で、祖母の遺影に見つめられながら、祖母の愛用していた遺品で、祖母のことを想いながら、精通を経験した。僕のなかで、“性”と“死”が“罪悪感”という接着剤でがっちりと結合した瞬間だった。その後も、僕は家族の眼を盗んでは、祖母の部屋でこの“冒涜の儀式”を繰り返した〉

 やがてその性的倒錯は「殺人」へと発展していく。Aは、弟の友だちでもあった淳君の殺害について、こう記述している。

〈僕は、淳君が怖かった。淳君が美しければ美しいほど、純潔であればあるほど、それとは正反対な自分自身の醜さ汚らわしさを、合わせ鏡のように見せつけられている気がした。

 淳君が怖い。淳君に映る自分が憎い。淳君が愛おしい。傍に居てほしい。淳君の無垢な瞳が愛おしかった。でも同時に、その綺麗な瞳に映り込む醜く汚らわしい自分が、殺したいほど憎かった。

 淳君の姿に反射する自分自身への憎しみと恐怖。僕は、淳君に映る自分を殺したかったのではないかと思う。真っ白な淳君の中に、僕は“黒い自分”を投影していた〉

 Aは、自ら三島由紀夫と村上春樹に傾倒していることを明かしているだけに、文体まで二人を真似ている。読みようによっては、自分の文章に自己陶酔しているようにも思える。