和合亮一(詩人)
「遠近」
( 私の生家の
( 汚染土は
( 削られて集められて
( 穴を掘られて埋められたままだ
( 近寄らないように
( 杭が四隅に立てられていて
( いつかはどこかに移されていくのか
( その兆しなどないまま事故現場のようにおし黙っている
( 十万年が立てば放射線の成分は消えるらしい
( 十万年もあのままだったりしてなどと家族で冗談を言う
( 放置されたこの状態をたとえば
( 切り離されたトカゲのしっぽにたとえてみるのはどうだろうと笑う
( 十万年もそれはくねくねと動き続ける
( 気が遠くなる
( 飯舘村のそちこちに並ぶ汚染された土砂の入ったフレコンバッグが
( 五年の歳月に耐えられず破けてしまっている
( 袋から出てしまった大量のそれが川へと流れてしまっている
( 十万年どころか五年も持たないことが分かったばかりだ
( 気が遠くなる
( 気が短くなる
2015.9.12
和合亮一『昨日ヨリモ優シクナリタイ』(徳間書店)より

3月11日に東日本大震災が起きて、16日に妻と息子が山形に避難して一人になって、ほかの福島の住民もどんどん避難していく。5分とか10分に一回、余震に揺られながら、なんでこんなことになってしまったんだろうとか、もっと大きな爆発が起きたら自分も避難しなくてはいけないとか、もう福島は返ってこないとか、いろんな思いが交錯して。すごく孤独な気持になって、この状況を書きたいと思った。そしてその時、ツイッターがあるってひらめいたんです。