しかし、前述のように大学教授とて一労働者である。よって事業主は法の趣旨にのっとった労働者保護を行わなければならない。現行、多くの大学では大学教授職について専門業務型裁量労働制を適用し、働き方については本人に大幅な裁量を与えているものと思われるが、それとて労基法のもとでは無制限な働き方を看過するわけにはいかない。

 具体には、連日こうこうと深夜まで研究室の電気がついていたら、「先生、お体に障りますのでお帰りください」と人事当局が逐次指導しなければならない。勤務時間の実態把握のために、タイムカードを導入するという施策も必要だ。なぜなら、大抵の大学教授の働き方が、極めて「ブラック企業的」であるからである。


「理念」と「法」の摺合せが必要だ


 念のため述べるが、筆者はブラック企業やブラックな働き方は、明確に否定する。誰しも健康的に働く権利があり、人を使い捨てにする働き方が肯定されることは、決してあってはならない。

 論点としては、「大学教授の使命」という視点に立てば、労基法に定める労働者性の議論が大学教授職において馴染むのか。さらに言えば、画一的に毎日17時に帰宅を促し、土日の出勤を禁じるような働き方のもとで、果たしてノーベル賞級のイノベーションが生まれるのだろうか、ということだ。本人が働くのが好きなんだから、勝手にやらせればいいじゃん、という次元の話をしたいわけではない。

 無論、ここまでは「大学教授が、働き方を自ら選択している(できる)」という前提で議論をしている。例えば、教授が部下である准教授に自分と同じような(研究の虫的な)働き方を求めた結果、准教授がそれを負担に感じたとすれば、それはハラスメント性を帯び、ブラック企業と同様の問題となり得る(無論、研究者としてそれでいいのか、という別の議論も生じるのだが)。

 大学教授とは何か、という理念的な話と、極めて実務的な法の話は、元来かみあわない議論だ。それゆえ、大学関係者の間では、今現在も理念と実務の間で悩ましい対応を迫られている。労基署からは是正を迫られ、大学教授からは研究の邪魔はしないでくれと言われ、人事当局の悩みは尽きない。

 科学技術立国の推進、我が国大学の世界トップレベル化等が国策となり、久しい。そろそろ文部科学省と厚生労働省の折衝等を行い、大学教授職における労働者性の議論をされてはどうだろうか。その議論が曖昧なままでは、当事者も混乱するばかりだ。

 国を挙げて、様々なイノベーションが生まれる研究環境づくりを是非とも応援していただきたいものである。

【参考記事】
■重要法案は「安保」だけではありません~カウンセラーの国家資格化法案が成立したという話。~ (後藤和也 産業カウンセラー/キャリアコンサルタント)
■「雑談をしようとせず、仕事が終わったらさっさと帰る部下」は、問題ではありません。 (後藤和也 産業カウンセラー/キャリアコンサルタント)
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