これから説明するように、慰安婦問題でのCEDAWの質問書に対する政府・外務省の対応は、二転三転してきました。今回の答弁内容を評価しない者が、口頭発表にこだわって、国連による実質「非公表」措置に導いた疑いを私は捨てきることができません。今後、確認していきます。

 さて、昨年7月にCEDAWでスピーチをした私は、帰国後質問書の存在を知り、外務省などへの取材を始めました。11月には、日本政府の回答書に「朝鮮半島において慰安婦の強制連行を裏付ける証拠はなかった」とする政府の立場を盛り込む方針で調整されていると聞き、前回の本誌報告では、慰安婦の強制連行を明確に否定する回答になることを期待したいと書きました。

 ところが、実はこの時、回答をめぐって、外務省内でかなり混乱があったようなのです。本来のCEDAWへの提出締め切りは11月6日でした。私が11月の初旬に確認すると、「11月13日(第2週の週末)までには提出する」との答えがありました。ところが、第3週になって尋ねると、「官邸との調整が済んでいない。実は外務省から官邸にまだ提出できる状態ではない」と言われ、作業が遅れている印象を持ちました。

 不安になりましたが、その後、回答書作成の作業関係者から回答は概ね「期待通り」の内容となったと聞き、11月末にはCEDAWに提出されたとの情報を得て、安堵していました。
会談を前に韓国の尹炳世外相(右)と握手する岸田外相=
2015年12月28日、ソウルの韓国外務省
会談を前に韓国の尹炳世外相(右)と握手する岸田外相= 2015年12月28日、ソウルの韓国外務省

日韓合意の疑問


 年末の12月28日、慰安婦問題をめぐる日韓合意のニュースが飛び込んできました。

 私はソウルで合意について発表する岸田文雄外務大臣の記者会見を聞き、次の2点の疑問を持ちました。

(1)なぜ、「軍の関与の下」という言葉を入れたのか?
(2)中国「国連等国際社会において(日韓が)互いに非難・批判することは控える」とはどういう意味か?

 日韓両政府間の合意において、なぜわざわざ「国連」という言葉が入ったのか。「国連」とは本来、政府が自発的に発言できない場です。慰安婦問題などを扱う国連人権理事会傘下の各委員会は、各国の民間団体(NGO)から意見を聴取し、その国の政府に回答を求める仕組みを取っています。まだまだ人権が確立されていない国が多く、政府にモノが言えない住民に代わって国連が意見を言うのです。我々には理解しがたいことですが、国連の委員は「民間人は善、政府は悪」という考えで委員会を運営します。政府は聞かれたことに答えるだけの立場なのです。

 実際に国連の委員会に参加して気付いたのですが、そこで発言しているのは日弁連や、日本女性差別撤廃条約NGOネットワークといった左派系の団体でした。我々が国連で発言するまでは彼ら左派系団体の独壇場だったのです。