「女性の就労と出生率」神話


(WCF「SWEDEN AND THE FAILURE OF EUROPEAN FAMILY POLICY」より)
 出生率の低下は、我が国を含めて先進国共通の病と言えるだろう。我が国の男女共同参画局は、「女性労働率が高い国ほど合計特殊出生率が高いという関係にある」という国連世界人口政策担当が2000年に発表した分析を根拠として、政府が少子化対策を「最重要課題」と位置づける中で、その解決の切り札として、女性の就労と家庭と仕事の両立支援を促進している。9月15日にも、内閣府が「働いている女性の率が高い地域ほど出生率も高い」という国内の統計分析を発表している。

 日本と同じく深刻な出生率低下に悩む欧州でも、やはり、この「出生率神話」がスウェーデン政府主導で政策に取り入れられているという。2004年にスウェーデン政府は欧州連合に対して、「スウェーデンは、ヨーロッパで男女平等実現のペースを上げることに対して特別の責任を持っている」として、「家庭生活と職業生活が一体になる現代的家族政策がヨーロッパの直面する出生率低下に対抗するために必要である」という「スウェーデンモデル」を提起している。
 しかし実はスウェーデンでの特殊合計出生率は、1991年の2・11をピークに下降を始めて、03年には1・53という他の欧州各国と同じような数値になっている。スウェーデンは「両親保険」によって、休業直前の8割の所得(98年以前は9割)を390労働日にわたり保障している。加えて、2年半以内に次の子を産むと、先の子の出産の休業直前の所得の8割が育児休業中に再び保障される「スピードプレミアム制度」が80年に導入されている。その頃から91年までの間、第一子と第二子の出産時期の接近効果で出生率は上昇したが、それは「スピードプレミアム制度」による一時的効果であり、女性の就業率には一切無関係であったことは出生率の数値が明らかにしてくれている。

 更に欧州でも「スウェーデンモデル」の破綻に気づく人たちが出てきている。「Science」誌03年3月号には、「Europe's Population at a Turning Point」というアナリストチームの記事が掲載されている。この中で、「スウェーデンモデル」を構成する、男女平等教育や結婚の脱構築という要素は、実は高出生率だった発展途上国において、女性の出生率の劇的低下を招いた要素と全く同じであるという分析が掲載されているのだ。

 また04年初め、国連経済社会局人口部部長であるJoseph Chamieは、「多くの政府、NGO等が、基本原則と望ましいゴールとして、就労におけるジェンダー平等や、家庭での男女平等を強く支持しても…労働力、子育て、家事への男女の平等参加が、出生率アップに繋がるかどうかは全く明白ではない。それどころか…人口置換に相応しくないと言える」という趣旨のことを述べている。国連の人口担当者がどういう意図で、どういう文脈で、こうした結論を発表したのかは疑問の残る所であるが、いずれにしても、国連による「女性労働率が高い国ほど出生率が高い」という分析を、国連の高官自身が否定しているのだ。

 では、この問題の具体的解決策はあるのか? アラン博士は「アメリカモデル」を提案している。米国は2000年時点で2・14という先進国の中で最も高い特殊合計出生率に達している。この要因は、一つはヒスパニック系移民の高い出生率に拠るものである。もう一つは婚外子が多いということである。しかし、米国の高出生率は、移民や婚外子ばかりに頼っているのではないと、博士は強調する。従来の米国民で正式な結婚をしている夫婦の間でも、出生率は上がっているのだ。その出生率アップの要因とは何か?

 一つは、アメリカの公教育の問題に関連している。NEAという全米教員組織は、日教組と同じように国家や親や従来の家族制度を否定する立場を取り続けている。これに対して、親たちは動機は様々ながら、70年代中ごろから「ホームスクーリング」(家庭で教育を施すこと)運動を始めた。各州政府と敵対しながら長年かけて、90年代には50州全てで、その権利を勝ち取り、04年までに200万人以上の子供がホームスクーリングで学んでいる。そして、ホームスクーリングの家庭を調査した時、ホームスクーリングと出生率の間に大きな関連性があることが分かった。

 まず、ホームスクーリングを行っている家は、全て正式に結婚した家庭であり、77%が専業主婦だった。そして出生率がかなり高かったのだ。3人以上の子供を持つ家庭が62%(全国的には20%)、4人以上の子供のいる家庭は33・5%(全国的には6%)に上るという結果が出たのだ。

 またアメリカでは、「スウェーデンモデル」のような幼児手当と有給育児休暇制度ではなく、子供が増える度に税控除を行うという政策がとられている。米国内の調査によれば、税の免除が1%増えると、出生の可能性が1%増えるそうだ。更に、アメリカにはユタ州のような信仰共同体が残っており、こうした地方の出生率は4・0と高い数値を示している。これらの要素に加えてアラン博士が指摘するのは、アメリカは、「スウェーデン化」されたヨーロッパ人よりも、フェミニズムに染まってはいないということだ。調査でも多くのアメリカ女性はフェミニズムという言葉に嫌悪感を持っていると答えている。

 つまり、親子関係が緊密で信頼と秩序が保たれるホームスクーリング効果、結婚と家族擁護に敏感な税制度、宗教的信念、妻と夫が互いに補完関係にあることを肯定することが、家族を強くしているのだ。これが、「アメリカモデル」なのである。

 我が国で、アメリカのホームスクーリングをそのまま真似ることは出来ないが、家族を破壊してしまうような現在のフェミニズム的家族政策では少子化は解消されないし、国の力を弱めるばかりだということを、安倍政権には是非認識して頂きたい。