怒れるアメリカがトランプ旋風となった


 二〇一六年のアメリカ大統領選挙は、アメリカ国民の怒りの爆発そのものである。とくにその怒りは既成政治家たちに向けられている。共和党の大統領候補としてドナルド・トランプの人気が異常な高まりをみせ、長期にわたって、フロントランナーの立場を維持してきたのはその証拠である。

米ウィスコンシン州ミルウォーキーでの選挙集会で、妻のメラニアさん(右)にキスをするトランプ氏 =2016年4月 4日
米ウィスコンシン州ミルウォーキーでの選挙集会で、妻のメラニアさん(右)にキスをするトランプ氏 =2016年4月 4日
 ドナルド・トランプは、その強烈な個性と強い指導力によって、共和党の一般党員と、党に属さない保守勢力の人々の三十数パーセントを味方につけ、二〇一六年三月現在、依然として大統領選挙戦の主役になっている。

 トランプは行く先々で熱狂的なファンにとり囲まれ、派手なジェスチャーと攻撃的な演説で、人々とマスコミの関心を集め続けているが、彼に対する強い支持と人気の原因を探ってみると、アメリカ国民の政治に対する不満が明確に浮かび上がってくる。その幾つかを分析してみよう。

 ドナルド・トランプが注目をあびた最初の発言は、メキシコからの不法移民に対するものだった。トランプは、メキシコから際限なく入り込んでくる不法移民が、アメリカの人々の仕事を奪っているとして、オバマ大統領の移民政策を厳しく批判した。

 オバマ大統領は、子供の時に親に連れられて入国し、成人になった一千万人近い不法滞在者をすべて、アメリカ国民として受け入れようとしている。そのためには大統領特別権限を発動することも辞さない構えでいる。これに対してドナルド・トランプは、不法移民は一人残らず追放するべきであると主張している。

 ドナルド・トランプはさらに、今後、アメリカに不法に入国しようとするメキシコ人を阻止するために、メキシコ政府の費用で、一千キロ以上にわたるメキシコとの国境に、高い塀を作るべきだと主張している。

 この発言が国際的な常識から見て大きく外れていることは明らかである。隣国との友好を考えれば、政治家が口にすることではない。メキシコ政府も「とんでもない考えだ。塀など作るつもりはまったくない」と反論している。

 メキシコからの不法移民は安い賃金で働くため、仕事を奪われたアメリカ人の生活が圧迫されているのは事実である。だが、不法移民をすべて追放するというドナルド・トランプの考え方はあまりにも乱暴だと考える人が大勢いる。ニューメキシコ州の共和党議員は、フォックステレビに出演してこう述べた。「メキシコからの不法移民は我々の仕事を奪っている。だが、声をあげて移民に反対するには政治的な危険がある。有権者の多くはメキシコに家族や親類、友人がいる」

 アメリカの政治家たちは、アメリカ人労働者の仕事のことを考えれば反対したいが、移民の国であるアメリカが、アメリカにやってくる人々を拒絶することはできないという建前から、ドナルド・トランプのような発言を控えてきた。