トランプ氏大統領候補選出で共和党団結不可能に


 ラインス・プリーバス共和党全国委員会委員長は、共和党全国委員会は最終的に大統領候補として指名された候補を「100%支持する」と述べているが、すでに共和党の議員の中にはトランプ氏が大統領候補になった場合はトランプ氏には投票しないと明言する議員も出始めている。

 特に、ロムニー氏が極めて批判的な演説を3月3日に行ったことについては「遅すぎた」という声がある一方、彼の演説は、トランプ氏に対する強い反発が共和党内の中道派・穏健派の間にあることの表れで、今の時期にあれだけ批判的な演説を彼がしたということは、夏の党大会で共和党候補を党が一丸となって支持しようという雰囲気を醸成することは、トランプ氏が候補として指名された場合ほぼ不可能になるのではないか、という見方も出てきており、その場合、トランプ氏に反発する勢力がポール・ライアン下院議長を「第3の候補」として担ぐ可能性も否定できず、ロムニー氏が自ら「第3の候補」として出馬するのではないかという憶測も流れている。共和党が内部から瓦解する結果になるのではないか、と指摘する声もあるほどだ。何しろ、まだ予備選も終わっていない時期に、ワシントン・ポスト紙のような大手の新聞が、「共和党はトランプ氏を止めなければいけない」という社説を掲載することそのものが異常事態だ。

米ニューヨークで演説するトランプ氏(ゲッティ=共同)
米ニューヨークで演説するトランプ氏(ゲッティ=共同)
 現在のところ、共和党側の動きが突出して目立っているため、共和党側だけがいわゆる「反エスタブリッシュメント」の動きに揺り動かされているように見えるかもしれない。しかし、実際は、民主党、共和党ともに、政治の現状に不満を持つ人が一般の有権者の支持層の中に増えており、それが共和党側ではトランプ氏の快進撃という形で、民主党側では、リベラルを通り越して、時に「社会主義者」と揶揄されるサンダース上院議員の予想以上の健闘という形で表れているという見方がより現実に近いだろう。

 01年にブッシュ政権が発足してから、特に9月11日の連続テロ事件以降、一般のアメリカの有権者は漠然とした不安の中で過ごしてきた。出口が見えないアフガニスタンやイラクでの戦闘に加え、08年にはリーマン・ショックがアメリカ経済を席捲した結果、国内の経済格差がこれまでにないほど広がった。さらに、選挙戦期間中は「思いやりのある保守主義」を唱えていたブッシュ政権の8年間で、議会での民主、共和両党間の対立は厳しくなる一方で、国民のために予算を成立させ、法律を通過させるという立法府としての基本的な機能を果たすことさえおぼつかなくなってきた。

 この状況を打開してくれるのではないかという国民の期待を背負って「チェンジ(変革)」を合言葉に当選したオバマ大統領の8年間も、状況に大きな改善は見られていない。米国経済は回復基調に乗ったとはいえ、そのペースは遅く、一進一退を続けている。格差問題も解消には程遠く、例えば、若年層が、学生ローンを抱え、独り立ちするために必要な十分な収入が得られる仕事になかなかつけないため、大学を卒業した後、再び両親と同居するケースも増えてきている。議会での党派対立は厳しくなる一方で2013年にはとうとう、1996年以来の連邦政府閉鎖という事態にまで発展、オバマ大統領もインタビューで、任期中に後悔していることとして「党派対立が厳しい状態を改善できなかったこと」と答える状況に至った。

 つまり、現在の政治状況に対して多くの有権者が抱えるフラストレーションが、現在のような状況に結び付いているといえる。

米国内の潮流が対外政策に影響及ぼす可能性も


 そして、気を付けなければいけないのは、国内の状況に対して充満するこのような苛立ちは、対外政策においては、「強いアメリカ」であり続けたいという強い思いがある一方で「アメリカだけが世界の安全に対して大きな負担をしてきている」という不公平感につながりかねないということだ。

 オバマ政権の8年間で、すでにヨーロッパに対してはNATOが自分たちを守るために十分な投資をしていないどころか、景気を理由に国防費を削減している、財政が厳しいのはお互いさまではないか、という批判が表面化している。アジア太平洋地域では南シナ海における中国の行動について、今でこそまだ、「アメリカは中国に断固たる決意で自らの行動がコストを伴うことをわからせなければいけない」という声が主流だが、この声と「地域の国は自分たちで自分たちを守るためにもっと努力すべきだ」という主張は常に背中合わせだ。そして、米国のこのような状況がすぐに好転する可能性が低い以上、このような苛立ちも当面の間続くと思われる。

 日本は、「トランプ大統領」の危険について声高に論じるよりも、米国内のこのような潮流がこれから米国の対外政策にどのような影響を与えるかについて、より真剣に考える必要があるだろう。