そういう前提で、この資料を読むと日本政府が行ったと言われる大規模な強制連行など荒唐無稽の話に思えるでしょう。しかし、そう言うと「だからと言って民間業者や末端官吏が、まったく行っていなかったという証拠にはならない」と反論する人がいますが、そうなると、どこまで日本政府が個人の行った行為に対して謝罪や保証しなければいけないのかという話になり、彼らの言い分が通るのであれば、日本も戦後の混乱期に日本人に対して行われた乱暴狼藉に対して韓国に謝罪と補償を求めなければならなくなります。

日韓条約調印式。左から金首席代表、李東元外相、
椎名悦三郎外相、高杉晋一首席代表
=首相官邸大ホール、1965年6月22日
日韓条約調印式。左から金首席代表、李東元外相、 椎名悦三郎外相、高杉晋一首席代表 =首相官邸大ホール、1965年6月22日
 そのようなことがないように日韓基本条約などの条約を結んで過去を清算しているのですが、韓国においては反日の大義の前には条約も霞んでしまうようで、いまだに元徴用工や遺族が日本企業を訴え、記憶に新しいところでは昨年11月ソウルの地方裁判所が日本企業に一人頭一億ウォンの支払いを命じる判決を下しています。ここで確認しておかなければいけないのが、いわゆる強制労働自体に対する謝罪や賠償と未払い賃金との違いです。

 前者は、いわゆる強制労働自体が違法であったとするもの、後者は労働に対する対価を求めるもので同じ金銭の要求であっても異なる性格のものです。私は日本政府が前者の要求に対して、謝罪したり賠償したりする必要はないと思いますが、当時日本人として懸命に働いてくれた人たちに感謝するくらいのことはしても良いのではないかと思います。後者については「韓国の国内問題なので日本政府は関与しない」の一言で終わりです。

 そもそも条約締結交渉において、あえて面倒な未払い賃金等の個人補償を提案した日本政府に対して「個人への補償は韓国政府が責任をもつ」と、国への一括支払いを要求したのは当時の韓国政府です。日本はその言葉を信じて韓国政府に経済協力金を支払い、条約に「両締約国およびその国民の財産、権利、および利益ならびに両締約国およびその国民の間の請求権に関する問題が(中略)完全かつ最終的に解決されたこととなることを確認する」との文言を入れ日本が韓国に残した莫大な財産権を放棄したのです。

 つまり、今なお日本政府に賠償を要求している人たちが本来受けとる権利(時効でなくなったという説もある)のある金銭は、その時日本政府から韓国政府に支払われているのです。それなのに2012年になって韓国の最高裁判所は、「条約によって日本に対する個人的な請求権は消滅するものではない」と、とても法治国家とは思えない判決を下し、それに対して韓国政府は「司法の判断だ」と、とぼけています。