なんと、2015年6月10日の衆議院特別委員会で、菅義偉官房長官が、かの辻本清美代議士に論破されたのだ。内容は、

菅「安保法案を違憲ではないという学者は沢山いる」
辻本「何人いるのですか。挙げてください」
菅「三人だ。数の問題ではない」
辻本「事前に質問通告してあるので答えてください」

とのやりとりだ。完敗である。

 現に、反対派は勢いづき、マスコミを巻き込んだ大キャンペーンで、同法案は「戦争法案」とのレッテル張りを完全に成功させた。北朝鮮有事に際し金正恩の許可が無ければ自衛隊を救出に派遣できないなどという法案が「戦争法案」なら、もっとマトモな法律など望めないではないか。

 菅官房長官が余人を以て代え難い政権の大黒柱であるのは万人が認める所であろう。かたや辻本氏は名誉棄損にならない表現で形容するのが困難な御仁である。その両者が憲法論議に関しては、これである。菅官房長官でこの有様なら、いわんや他をや。最も失言が少なかった菅官房長官でこれなのだから、他の大臣の無残な答弁に関しては贅言を要したくない。

 しつこいが、私は安倍内閣に嫌味や敵対的な言辞を吐いているのではない。安倍内閣に続いてもらわねば困るから、御用評論家が絶対に言わない苦言を呈しているのだ。

那覇空港で緊急発進するF15戦闘機=2015年4月13日午前、航空自衛隊那覇基地
那覇空港で緊急発進するF15戦闘機=2015年4月13日午前、航空自衛隊那覇基地
 安保法案ごときで、これである。最終的には数の力で押し切ったが、去年のマスコミの大キャンペーンで、どれほどのレッテルを張られたかを思い出そう。憲法九条など本丸中の本丸である。どれほどの抵抗が押し寄せるか。それに対して、現在の安倍内閣は「開戦準備」ができているのか? 安保法案でまともな答弁ができなかった安倍内閣に、九条改正など無理だろう。

 保守論壇の少なからずの諸氏が、「今こそ九条に体当たりを」と唱えているのは知っている。では聞きたい。どうやって? 見事に当たったところで、どうなるのか?

 これを「太陽に体当たりする」と置き換えてみよ。当たったところで焼け崩れるだけだし、第一どうやって太陽にたどりつくのだ。

 九条のでたらめさなど、言われなくても承知している。何なら、九条のデタラメさだけで大学の講義三十回分をしても良い。ハッタリではなく、やろうと思えば本当にできてしまうくらい、九条はデタラメなのだ。昨年、『学者も政府もぶった斬り! 倉山満の憲法九条』(ハート出版)を上梓した。九条論議の中で、安保法制をめぐる部分だけで、245頁の一冊の本になるのだ。そんな本を書いた私が、あえて言う。

 のどの渇きをいやすために毒を飲むなど、愚の骨頂だ。

 別に永遠にあきらめろとは言っていない。この夏の参議院選挙に、憲法九条の改正は間に合わない。少なくとも、国民の理解を得られるような準備はできていない。

 だから、もっと他の現実的手段を考えよ、と言っているのだ。

 何度でも言う。「やらねばならぬこと」と「できること」は違う。