内閣だけで法律と同等なルールを作れる?


 改憲案では、「緊急事態が宣言、発せられた場合は内閣が法律と同じ効力を持つ政令を発することができる」となっています。石川教授は「国会での法律の審議すらある意味飛ばして、内閣レベルで法律と同等なルールを作れてしまいます。さらにその政令に関し、『憲法14、18、19、21条その他の基本的人権に関する規定は、最大限に尊重されなければならない』と書いてある。逆に言えば、尊重さえすれば、憲法で保障されているさまざまな基本的人権をも制約できるとも解釈できます」と、憲法の条文そのものを相対化する危険性を指摘しました。内閣が発する政令次第では、例えば“裁判所の令状なしでの身柄拘束”などが可能となるのです。

 一番の問題は、憲法レベルで保障されている基本的人権が簡単に制約されてしまうことです。憲法に創設されるとなると、もちろん違憲でもありません。さらに、石川教授は緊急事態の宣言の手続きについて指摘しました。「緊急事態は内閣総理大臣が発します。これへの歯止めとして考えられるのが国会です。しかし、国会の承認は事前または事後でも認められます。そして、その承認の期限がないのです。 極端な話、緊急事態宣言を発して数か月後の承認でもいいのでしょうか?」と、疑問を投げかけました。

 実際に同様な形で1955年から運用されているフランスの事例を見てみます。フランスでは現在、昨年11月のパリ同時多発テロ事件の発生に伴い、大統領が非常事態宣言を発令しています。発令されると、夜間外出禁止や集会の規制、ライブハウスやホールなどの人が集まる施設の営業規制、裁判所の令状なしで昼夜問わずの家宅捜索、令状なしでの不審者の身柄拘束が可能となります。

 もちろん問題点もあります。今回のテロ事件に関連し、フランス当局は数千件に上る家宅捜索を行ったのにも関わらず、結果的にテロとの関係が疑われる犯罪の立件は1桁くらいしかないのです。このような状況もあり、フランスでも法律家や市民グループが行政裁判を起こしています。さらに、フランスでも非常事態法で自然災害の想定を記載していますが、これまで6回の非常事態宣言の発令では、自然災害での適用が1回もないのです。

現行法でほとんど対応できる?


 それでは、日本において緊急事態条項は必要なのでしょうか? 石川教授は全て現行法で賄えるとして不要と主張します。「自然災害と武力攻撃は先ほど指摘した法律でほぼ対応可能です。さらに衆議院解散中の空白ついても、実は現憲法で対応できるのです。衆議院には解散がありますが、参議院にはありません。解散がない上に半数ごとの改選なので国会には空白期間が生まれません」。緊急事態を想定し、憲法54条で“参議院の緊急集会(衆議院が存在せずに国会が開催できない場合で、国に緊急の必要性が生じたために参議院で開かれる国会の機能を臨時に果たす集会)”が定められているのです。

 憲法改正は安倍首相の宿願であり、緊急事態条項の必要性を認める見方もありますが、議論は注意深く見ていく必要があるかもしれません。

(ライター・重野真)