個性の基礎をなすのは「性格」である。性格の科学的研究においては、「ビッグ・ファイヴ」(Big Five)と呼ばれる、5つの性格要素が重要であることが指摘されてきた。すなわち、経験に開かれていること(Openness)、良心的であること(Conscientiousness)、外向的であること(Extraversion)、親しみやすいこと(Agreeableness)、そして、神経質なこと(Neuroticism)である。これらの要素がさまざまなに組み合わさり、一人ひとりの性格が形成されていく。

 性格などの個性は、人工知能では再現することは難しい。現在開発されている人工知能は、性格的に言えば「慌ただしい子ども」(busy child)のようなものだと指摘されている。ロボットに向き合う時、その性格に、まだ、人間と対面する時のような個性の広がりが感じられないのは当然だ。なぜならば、人工知能の「性格」には、まだ十分な幅(スペクトラム)がないからだ。

 そもそも、性格を記述する前述の「ビッグ・ファイブ」にしても、人間の性格類型についての統計的な分析があるだけであり、それをロボットやコンピュータなどの人工知能に実装するために必要な動的な理論モデルが存在しないのが現状だ。モデルがないものを、人工知能で置き換えることは不可能である。

 「知能」は、理論的なモデル化がしやすい。実際、20世紀の半ばにコンピュータの理論モデルをつくった英国の天才数学者、アラン・チューリングは、どのような内容の計算も、コンピュータで実行できるということを数学的に示した。一方、個性はそのようなモデル化がしにくい。個性の実装がまだ進んでいない根本的な理由である。

 何よりも、個性は、知能のような「最適化」が行いにくい。テストならば、解答の速さと正解率でそのパフォーマンスを評価し、最適化できる。(実際、今までの偏差値入試は、人間におけるそのような最適化の能力を競い合ってきた。)

 ところが、個性には、「正解」がない。少なくとも、正解が「一つ」ではない。その点に、個性というものが人工知能に実装しにくい、根本的な原因がある。