世界記憶遺産はナンセンス


小浜 安全保障に関するご意見には完全に同意します。しかし、アメリカがほんとうに日本の自立を望んでいるかとなると、私には疑問ですね。先の「南京大虐殺文書」という名の捏造資料がユネスコに登録されて喜ぶのは、中共や韓国だけでなく、じつは戦勝国であるアメリカも同じでしょう。もちろん同盟国としての関係も大事なので、そこには一種のダブルスタンダードがあるのではないでしょうか。ネガティブなほうのスタンダードに着目すると、東京大空襲や広島、長崎への原爆投下といった「アメリカの戦争犯罪」を隠すために、日本にはいつまでも悪い戦争を仕掛けた国でいてほしいわけです。

ケント しかし、それと同じことはアメリカに関してだけでなく、すべての戦勝国にいえるのではないですか。たとえば、ロシア(旧ソ連)はシベリアで日本人捕虜に対して行なった非人間的な行為を長く謝罪しなかった。

小浜 「シベリア抑留資料」については日本が申請して登録が認められましたが、すぐにロシアが文句をつけてきましたね。シベリア抑留は紛れもない事実ですが、そもそも私は、ユネスコの記憶遺産という事業そのものがインチキだと思っています。

ケント 私もそう思います。ずいぶん政治的なものになっていますから、世界記憶遺産はもうやめたほうがいいでしょう。歴史に関する問題は、専門の学者に任せておくべきです。なにもユネスコにお願いする必要はありません。

小浜 歴史というものは、いうまでもなく国の立場や利害によってさまざまに見方が変わります。それをユネスコという国連の一機関が「事実」として認める、という発想自体がナンセンスですね。ケントさんがご著書で書かれているとおり、国際連合とは要するに戦勝国連合です。その証拠に、国連は日本やドイツに対する「敵国条項」を今日に至るまで残しています。

ケント 他に国際機関がないから便宜上、国連が使われているだけで、アメリカ政府は自分たちの出先機関にすぎないと思っています。そのアメリカですらユネスコの政治的なスタンスに反発しており、2012年から拠出金も出していません。
30万人という犠牲者数を記した南京大虐殺記念館の壁=2015年10月5日、中国江蘇省南京市(共同)
30万人という犠牲者数を記した南京大虐殺記念館の壁=2015年10月5日、中国江蘇省南京市(共同)
小浜 他方、いままさに中共はユネスコに多数の「工作員」を送り込み、ロビー活動をやっていますね。

ケント 中華人民共和国(PRC)には、アメリカをアジアから追い出して太平洋の半分を制覇するという大きな目的がある。PRCのこの計画をマイケル・ピルズベリー氏(ハドソン研究所中国戦略センター所長・国防総省顧問)は「中国の百年マラソン」と呼んでいます。PRCがユネスコに「南京大虐殺文書」を認めさせたのも、アメリカに「日本は悪い国だった」と思い込ませて信頼関係を失わせることで、日米安保の解体につなげたい、という長期的な野望があるからです。

アジア版NATOを創設せよ


小浜 他方、アメリカは中共のそうした覇権主義をどこまで本気になって阻止するつもりなんでしょうか。2015年、スプラトリー諸島(南沙諸島)海域で中共が人工島を建設し、フィリピンやベトナムなど周辺国に脅威を与えた際、アメリカは「航行の自由」作戦を行ないました。しかし、中共の人工島建設は明らかな侵略行為です。フィリピンはもちろん、いまやベトナムでさえもアメリカの友好国であることを考えれば、その対応はじつに「手ぬるい」と思いました。

ケント アメリカは、南沙諸島の領土問題には巻き込まれたくないのです。フィリピンやベトナムと友好関係を保ちつつ、PRCとも喧嘩はしたくない。すでにいまのアメリカは世界の警察官を担うのではなく、同盟国のなかで一定の貢献をしたい、という考えに変わっています。そこで私が提案するのは、アジア版NATO(北大西洋条約機構)の創設です。名付けて「ATO」(笑)。

小浜 それは大賛成ですね。そのATOの中心になる国は、やはり日本でしょう。ただし前提として、まず民主主義国の頭目アメリカが共産主義の中共に対して強く出てくれないと困る。日本も弱腰ではいけませんが、ともかく中共を怖がらせないと話にならないからです。その上で日本がアメリカと緊密な関係を保ちながらアジア諸国に協力を呼び掛ける、というかたちが理想です。

ケント 日本がATOの中心になるためにも、憲法改正が必要でしょう。そもそも、南沙諸島についてアメリカの対応が「手ぬるい」ということ自体、アメリカ依存症患者のような発言です。エネルギーや食糧を運ぶ輸送上、南沙諸島がPRCのものになっていちばん困るのは、日本ではないですか。

小浜 決して依存心からではなく、現状ではそれが戦略的に一番有効だというつもりなんです。ですが、いちばん困るのは日本というのはそのとおりですね。日本へ向かう大型タンカーが通る海上交通路、すなわちシーレーンを中国共産党に押さえられたら、日本は石油供給が途絶えてアウトです。

ケント だとすれば、どの国よりも率先して日本が対応すればいい。何でもアメリカにお願いすれば済む時代は終わったのですから。

小浜 そのとおりです。しかし、いまの安倍政権と国内世論の動静からすると、現実的に憲法改正や海外派兵は難しい。

ケント だとすれば、南沙諸島はPRCのものになることを覚悟するしかないですね。それは日本が憲法改正をしないことの代償だといえます。