日本の悪評が世界中に


小浜 冒頭で述べた慰安婦問題をめぐる日韓合意なるものについて、岸田文雄外務大臣は韓国の尹炳世外相との会談(2015年12月28日)で「軍の関与の下に、多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた」「日本政府は責任を痛感している」と述べました。この発言は、誰が読んでも軍の強制性を認めたものとしか受け取れません。『朝日新聞』が不十分とはいえ慰安婦問題の誤報を認めたにもかかわらず、それすら台無しにする行為です。あまりのショックで、血圧が上がりましたね。

ケント 私も以前から「日本政府は韓国政府とのあいだで妥協的な解決を二度と行なうべきではない」と言い続けてきましたので、日韓合意の第一報を聞いたときはかなり落ち込みました。ただしばらくして、こう考えるようになりました。日本はいつまでも慰安婦の強制連行という「作り話」に振り回される必要はない。加えて日本は10億円の拠出金と引き換えに慰安婦像の撤去を求めるボールを韓国側のコートに送ったのだから、とりあえず相手の出方を待つべきであると。

小浜 いや、このままではまずいですよ。現に日本の悪評がすでに世界中を駆け回っているからです。オーストラリア・ジャパン・コミュニティー・ネットワーク(AJCN)代表・山岡鉄秀氏の調査によれば、「日本政府は潔く謝罪した。韓国は受け入れるべきだ」と主張する海外のメディアは皆無であり、「日本政府がついに性奴隷を認めた。その多くは韓国人女性だった」という論調だったそうです。

 これはほんの一例ですが、米紙『ニューヨーク・タイムズ』(2016年1月1日付)は、慰安婦問題に関する共著をもつアメリカの大学教授による次のような投書を掲載しています。「生存者の証言によれば、この残酷なシステムの標的は生理もまだ始まっていない13、14歳の少女だった。彼女たちは積み荷としてアジア各地の戦地へ送られ、日常的に強姦された。これは戦争犯罪のみならず、幼女誘拐の犯罪でもある」。

ケント まったく呆れる内容ですね。しかし日本のジャーナリストは海外メディアの誤った報道に対して、英語できちんと反論していない。それ以上に問題なのは、専門の広報機関が日本にないことです。

ロビイストを雇えばいい


小浜 本来、そうした仕事は外務省がやるべきですが、いまの外務省にはまったく期待できない。ケントさんは、どうすればよいと考えていますか。

ケント これから日本が海外向けの広報機関をつくるにしても、外務省から独立した組織が望ましいでしょう。外務省の管轄にすると結局、何もしない組織が新たに増えるだけで終わりかねない。では、いまの日本には打つ手がないのか。そんなことはありません。簡単なことで、ロビイストを雇えばいいんです。昨年4月に安倍首相が渡米した際、アメリカ上下両院の議員に対して「希望の同盟へ」と題する演説を行ないました。あの演説が実現して大成功に終わったのは、日本政府が雇ったロビイストのおかげです。一方で韓国も2013年5月、朴槿惠大統領が同じくロビイストを使ってアメリカで議会演説をしました。ところが「歴史に目を閉ざす者は未来が見えない」と対日批判をして安倍首相を妨害しようとしたら、見事に失敗した。つまり、日本にはロビイストを使った戦いで勝利した前例があるわけです。

小浜 先に名前の出たAJCNにしても、民間のボランティアの集まりです。それでもオーストラリアで慰安婦像の建設を阻止するなど、政府以上の活動を展開している。政府が歴史問題に関する事実を公式に訴えていくとともに、民間の団体も活発に活動して官民一体となって動くのが理想ですね。

ケント いや、私は政府が表に出るべきではないと思っています。あらかじめ政府が「公式のお金」で海外のロビイストを雇い、現地の世論をいかに誘導するかを考えていくべきです。
「慰安婦」女性の遺影の前で両ひざをついて線香をあげるエド・ロイス米下院外交委員=米カリフォルニア州グレンデール(中村将撮影)
「慰安婦」女性の遺影の前で両ひざをついて線香をあげるエド・ロイス米下院外交委員=米カリフォルニア州グレンデール(中村将撮影)
小浜 中共や韓国はそれを日常的にやっているということですね。もちろん、アメリカも。

ケント そうです。アメリカ国内で慰安婦像が建ってしまったのも、韓国に雇われたロビイスト、小浜さんの言葉を借りれば「工作員」の働きがあったからです。もちろんPRCも工作員を日本のメディアに浸透させている可能性があります。今年2月、菅義偉官房長官は「わが国はいかなる国に対してもスパイ活動に従事していない」と発言しましたが、日本がほんとうに何も情報活動していないのだとすれば、そちらのほうが大問題です(笑)。スパイ活動はともかく、日本は海外向けの宣伝活動にもっとお金を使うべきですよ。日本の歴史認識や政策を広めるためには当然のことでしょう。経済規模からいっても、日本は十分に「大国」です。しかし、自国の正義なり、政策を外国に説明するような体制をもたない大国なんていうものが世界にありますか。さらにいえば、自分の防衛をすべてヨソの国に委ねている大国がありますか。アメリカ頼みの時代はもう終わったのですから、取るべき政策を早く取ってほしいですね。

小浜 自国の基地に外国の軍隊がこれほど駐留している国は大国どころか、そもそも独立国家の名に値しません。日本に課せられた役割は、名実ともに大国となり、アジアの平和を守る盟主として台湾やフィリピン、ベトナム、インドネシア、オーストラリア、インドなど利害の一致する友好国をまとめ上げ、中共や北朝鮮に対抗する集団安全保障体制を築くことなのです。

Kent Sidney Gilbert 米カリフォルニア州弁護士、タレント。1952年、米アイダホ生まれ。1971年に初来日。1980年、国際法律事務所に就職して東京に赴任。TV番組『世界まるごとHOWマッチ』に出演し、一躍人気タレントへ。最新刊は『不死鳥の国・日本』(日新報道)。公式ブログ「ケント・ギルバートの知ってるつもり?」で論陣を張る。
こはま・いつお 批評家。1947年、横浜市生まれ。横浜国立大学工学部卒業。2001年より連続講座「人間学アカデミー」を主宰。家族論、教育論、思想、哲学など幅広く批評活動を展開。現在、批評家。国士舘大学客員教授。著書に、『日本の七大思想家』(幻冬舎新書)、『なぜ人を殺してはいけないのか』(PHP文庫)など多数。