アメリカには、薬物専門の裁判制度「ドラッグコート」がある。これは、薬物事犯者が刑罰か治療かを選択できる画期的な裁判制度で、1989年にフロリダ州から始まった。

 それまで麻薬の蔓延に悩んできた米国政府と市民社会は、厳罰主義で、薬物事犯者を厳しく取り締まってもいっこうに問題が解決しないことに気がつき、こういう制度をつくることになった。

 いくら厳しく罰し、刑務所に収監しても、薬物事犯は再犯を繰り返す。それは、麻薬常習が病気だからだ。病気なら治さなければならないと考えたのである。

 残念ながら、日本にはこういう制度、考え方がない。罪を犯した者は、社会から排除してしまえばいいという考え方しかない。そのため裁判では、刑罰が決められ、それに情状による軽減措置を施すことだけで終わる。これでは問題解決にならない。

 病気治療のために、施設に入院にし、そこで1年なら1年、治療プログラムを受けることを命じるというような判決を下すべきだ。優先すべきは、刑罰より治療である。

米国では、ドラックコートは、約3000カ所の裁判所で実施されている(2014年現在)。それを受けて、薬物事犯の治療施設が各地に設置されている。たとえば、最も多いニューヨーク州には280カ所、2番目のカリフォルニア州でも182カ所ある。さらに、地域の人々が協力して、薬物問題に取り組むための支援をするNPO団体、「全米薬物乱用防止コミュニティ連合」(CADCA:Community Anti-Drug Coalition of America) が、全米でなんと5000カ所もある。

 ところが、この日本では、薬物治療施設は、人口1100万人を超える東京都でも数カ所しかない。「薬物依存症の人が相談したり、治療を受けたりする所がない」という状況が続いている。清原被告は、こうした施設のどこかに入って治療を受けると言われているが、本当にそうなるのかは現時点では確認されていない。

 ドラッグコートは米国だけでなく、イギリス、カナダ、オーストラリア、メキシコなど23カ国で実施されている。各国で刑事司法制度は異なるので、一概には言えないが、「刑罰から治療へ」という基本的な考え方は同じだ。
 
 日本では薬物事犯の初犯者には執行猶予をつけ、再犯者に実刑を科すのが一般的になっている。覚醒剤使用の初犯者には「懲役1年6カ月(あるいは3年)、執行猶予3年(同4年)」が定番となっている。

 今回の清原被告の判決も、ほぼこの過去の判例どおりになる可能性が高いとされる。しかし、初犯者を執行猶予にしてなんの罰も与えないと、許されたと思って簡単に再犯してしまう事例が多いという。

 この問題の核心は、いくら「ダメ、絶対ダメ」と言っても、薬物に手を出してしまう人は一定の割合で存在することだろう。その人たちに必要な支援を行わなければ、使用を繰り返し、依存症になってしまう。

 依存症は病気なので刑罰では治らないし、まして本人の意志や根性で治るものではない。薬物依存症者に必要なのは刑務所ではなく治療である。

 このことを、今回の清原事件を契機にして、マスコミもテレビのコメンテーターも強く訴えてほしいと思う。清原被告は、間違いなくまだ依存症から脱していない。病人である。病気なら治さなければならない。

 そうしないと、私たちの社会は麻薬にさらに蝕まれる。覚醒剤使用を、清原被告の個人的な問題で片付けてしまってはならないと、切に願っている。