また本件では、日本を攻撃する道具として国連が政治的に利用された可能性が高い点も見逃せない。皇室典範に関する話題が委員会で一度も提示されていなかったにもかかわらず、何の前触れもなく最終見解案に書き込まれた。これは、日本の反論権も無視するもので、水面下で何らかの工作がなされたものと思われる。一体誰が何のために、明らかな手続違反をしてまで皇室典範を盛りこむ必要があったのだろうか。
 その答えは委員会の顔ぶれから見えてくるように思う。日本向け勧告をとりまとめた同委員会の副委員長は中国人だった。中国が国として関与した可能性も想定しておくべきであろう。

 しかも、同委員会の委員長は日本人であることは、あまり報道されていない。林陽子という人物で、フェミニズム運動に取り組む弁護士である。林氏は昨年二月から二年の任期で、委員長として全ての議事を司る責任を負う立場にある。また、日本から大勢のNGO団体が参加した。皇室典範の改定など、日本人の入れ知恵がなければ議論に登ることもなかったであろう。

国連女性差別撤廃委員会の対日審査会合
=2月16日、ジュネーブの国連欧州本部
国連女性差別撤廃委員会の対日審査会合 =2月16日、ジュネーブの国連欧州本部
 つまり、告発者である日本のNGOと、日本人委員長、そこに中国人副委員長が力を合わせて皇室典範改定の勧告を作り上げたという背景が見えてくる。では林委員長は一体何をやっていたのだろうか。対日最終見解案に皇室典範のことが記載されたことを、知らなかったとは考えにくい。

 私は、国会が林陽子氏を参考人として招致し、皇室典範のことが最終見解案に書き込まれた経緯を説明させるべきであると思う。皇室典範のことを知らなかったのであれば、まじめに仕事をしていなかったことを意味する。また、知っていたのであれば、なぜ日本の立場を説明して回避する努力をしなかったのか、大いに疑問を呈すべきであろう。

 日本政府が抗議しただけで取り下げたのであるから、日本人の委員長が説明すれば、簡単に皇室典範への言及を削除させることができたはずだ。あるいは、林氏自身が皇室制度を変えようとする中心人物だったと考えれば辻褄が合うのだが、真相は国会で追及して欲しいと思う。もしそうだとすれば、本件は委員長自身が国連機関を政治利用した由々しき事件だったことになる。

 男系継承の原理は簡単に言語で説明できるものではないが、この原理を守ってきた日本が、世界で最も長く王朝を維持し現在に至ることは事実である。皇室はだてに二千年以上も続いてきたわけではない。歴史的な皇室制度の完成度は高く、その原理を変更するには余程慎重になるべきである。今を生きる日本人は、先祖から国体を預かり、子孫に受け継ぐ義務がある。国体の継承は私たちの責務であると考えなくてはならない。
(本稿は、『正論』平成二十八年五月号「君は日本を誇れるか~皇室典範に口を挟む国連」に大幅に加筆したものです)