ベトナムは七世紀ごろにすでに南沙諸島(ベトナム名・黄沙、長沙諸島)を発見し、領有を主張していたのに対し、中国ではもっと以前、二千余年も前の漢の武帝の時代にすでに発見し、宋の時代に領有を宣言したと言い張った。しかし、そこにはいかなる論拠もない。中国が「核心的利益」(絶対に手放せない利益)として、「絶対不可分の固有の領土」としているのが台湾である。一時、古代からすでに中国のものだったと語るために、最初の書『尚書(しょうしょ)』(『書経(しょきょう)』)・禹貢(うこう)篇にある「島夷卉服(とういきふく)」というたった四文字を根拠にしたことがある。この四つの文字をもって、卉服を帰服と読みかえ、台湾が四千年前にすでに中国の朝貢国であったと主張したが、しかし、南洋に浮かぶ当時の南沙諸島は「島夷」がいないどころか無人の島ばかりであり、しかも満潮時にはすっかり海面下に水没してしまう暗礁だらけの海であった。そんなところに「島夷卉服」のたった四文字だけを根拠にして主権や固有領土を主張するのは、荒唐無稽である。

 そのため、中国政府の公式の主張としては、「漢の時代からずっと管理している」というのみが正式な見解として残っている。

 習近平主席は自らアメリカ政府に対し、南シナ海の諸島は太古から中国の固有領土だと主張した。

中国人民解放軍の統合作戦指揮センターを視察する習近平国家主席=2016年4月20日、北京(新華社=共同)
 その習近平だが、文革中に正式な学校教育を受けていなかった。なのに博士号までもっていることに対し、ネット世代の真相探りによって、学歴詐称との話まで出ている。

 習は中国史でさえ一知半解であり、正確な知識はないので、勝手に言っているだけである。勝手に「太古から」と言い、「ずっと管理している」とする中国の公式の主張には、はたして根拠があるかどうか。

 このように、ときには捏造までして領土主張をする中国、中国人のメンタリティはどうなっているのか。中国の拡張主義や恫喝行為をどう受け止め、処理すべきなのか。

 それを考えることは、緊迫の度合いを増しているアジア情勢の中で、日本がいかにして中国に対峙すべきかを考えることでもある。

 本書が中国理解と今後のアジアを考えるうえで参考になれば幸いである。

 二〇一五年一二月中旬 黄文雄

黄 文雄(コウ ブンユウ) 1938年、台湾生まれ。1964年来日。早稲田大学商学部卒業、明治大学大学院修士課程修了。『中国の没落』(台湾・前衛出版社)が大反響を呼び、評論家活動へ。1994年、巫永福文明評論賞、台湾ペンクラブ賞受賞。日本、中国、韓国など東アジア情勢を文明史の視点から分析し、高く評価されている。著書に17万部のベストセラーとなった『日本人はなぜ中国人、韓国人とこれほどまで違うのか』の他、『世界から絶賛される日本人』『韓国人に教えたい日本と韓国の本当の歴史』『日本人はなぜ特攻を選んだのか』『中国・韓国が死んでも隠したい 本当は正しかった日本の戦争』『世界が憧れる天皇のいる日本』(以上、徳間書店)、『もしもの近現代史』(扶桑社)など多数。