安全保障と国家機密にまつわる欧米の制度とメディア報道の関係はどうなっているだろうか。

 アメリカにおける情報自由法では、情報公開の例外規定として国家の安全保障に関わる問題が指定されている。9つある例外規定の1番目は、大統領令によって定められた国防、外交における機密である(福田,2010)。ペンタゴン・ペーパー事件やウォータゲート事件など歴史的な事件を経て、アメリカ政府とメディアの対立と緊張関係がもたらすダイナミズムの中で、アメリカの報道の自由は維持されている。

 イギリスにおける公務機密法では、国家機密を漏えいしたものに対する処罰が規定され、政府とメディアの間で安全保障をめぐる報道について調整するDAノーティス制度が存在する(福田,2009)。DAノーティス制度においては、イギリス軍の作戦・計画・能力について、イギリスの安全保障・情報機関・特殊部隊についてなど5項目に関連する報道がなされる場合に、事前にDPBACという機関において政府とメディアの代表が報道について検討、審議しなければならない。

 アメリカやイギリスのような先進国においても、安全保障やインテリジェンスなどに関する報道については、政府とメディアの間に緊張関係が存在する。安全保障など社会的危機をめぐる政府とメディアの対決と克服によって民主主義が運営されている。

 ジャーナリズムの重要な役割のひとつは権力の監視機能である。それは民主主義社会における極めて重要な機能であり、報道の自由や市民の人権と結びついている。著者が所属した日本大学新聞学研究所が実施した「日本のジャーナリスト1000人調査」においても、ジャーナリズムの重要な機能として、日本のジャーナリストに多く挙げられたのが「正確な情報提供」(42%)と「権力の監視」(40.3%)であった。ジャーナリズムの国際比較調査においても、各国のジャーナリストの中でこの権力監視機能の重要性は指摘されている。

 しかしながら、その反面で国家の安全保障において国家機密の情報保全も極めて重要な活動である。それは国民の安全・安心を守るために必要不可欠な機能を有している。この「安全・安心」の価値と、「自由・人権」の価値は市民社会において重要な役割を果たしていて、どちらか一方だけが優先され、どちらか一方が破棄されてよいものではない。つまり、報道の自由や人権を守るために国家機密の情報保全に関する法制度が未整備のまま放置されてよいわけではなく、反対に、国家機密の情報保全のために報道の自由や市民の人権が損なわれてよいわけではない。この「安全・安心」の価値と「自由・人権」の価値がバランスよく運用されるための、インテリジェンス、テロ対策、安全保障の制度のあり方を議論する必要がある。

 「報道の自由」がどうあるべきか、その問題を考えるひとつのテーマとして、これまで日本では議論がなされてこなかった、この安全保障やインテリジェンス活動とメディア報道の問題について、根本的な議論を始めなくてはならない。

【参考文献】
福田充(2009)『メディアとテロリズム』(新潮新書)
福田充(2010)『テロとインテリジェンス~覇権国家アメリカのジレンマ』(慶應義塾大学出版会)
福田充(2015)『「報道の自由度」ランキング、日本はなぜ61位に後退したのか?』
日本大学新聞学研究所編(2007)『日本のジャーナリスト1000人調査報告書』.
Shinji Oi, Mitsuru Fukuda & Shinsuke Sako (2012) The Japanese Journalist in Transition: continuity and change, "The Global Journalist in the 21st Century". David H. Weaver, Lars Willnat(ed.), Routledge.