肉食獣はブッシュではなくオバマ


 ライオンが市長として登場ししかも傲慢な性格であると描かれていることもあり「暴力とは無縁な民主政治の世界でも肉食獣が強い」と勘違いしてしまうが、実は草食獣である羊族(白人)に媚を売って副市長に任命し票を取り込まないと肉食獣(黒人)は市長になれないのである。特にサヨク諸氏からは傲慢なライオン市長をブッシュ大統領に重ねてイメージする感想も聞かれるが、彼はむしろオバマ大統領なのだ。

 それだけではない。本作におけるテーマの一つは「差別問題」であるのだが、実は作中で差別をしているのは肉食獣ではない。草食動物こそが「肉食獣は大昔我々草食獣を食べていた」という恐怖心から来る偏見で、ライオンや狐、シロクマ等肉食獣を差別する側なのである。例えば狐のニックは幼い頃から草食獣に差別され続けた結果定職にも就けず詐欺師をやっている。街でアイスを買おうとしても、草食獣である象の店主に差別され販売拒否をされる。肉食獣は強者どころか、被差別弱者マイノリティなのである。

「ズートピア」ポスタービジュアル (C)2016 Disney. All Rights Reserved.
「ズートピア」ポスタービジュアル
 (C)2016 Disney. All Rights Reserved.

 作中の企業や店舗、警察からマフィア等各種組織のリーダーや長の顔もよく思い起こして欲しい。その殆どが草食獣であり、肉食獣のリーダーはせいぜい市長のライオンぐらいしかいない。銀行等金融を支配するのは小さなネズミのレミング達、iPhoneのアップル社ならぬキャロット社は恐らくうさぎ社長。背広を来て歩いているのも殆どが草食獣であり、肉食獣は差別されホワイトカラー等頭脳労働からは締め出されており、ブルーカラーやマフィアの下っ端に甘んじている世界がズートピアなのである。花屋さんになりたいと夢見ても、街中に堂々と華やかな店舗を持てる草食獣と異なり、肉食獣はマフィアと取引するしかない。

 そんな肉食獣不遇の世界の中でライオン市長は、草食獣への妥協や取引によってやっとその地位を獲得できた、恐らく初の肉食獣出身市長なのだ。オバマ大統領なのだ。

 だいたい、主人公のうさぎのジュディが働くこの世界唯一の暴力装置である警察のワッペンにはサイがシンボルとして描かれている。つまり我々の思い込みと異なり、治安を守ってきたのは肉食獣ではなく、大型草食獣であるという事実が示唆されている。ジュディの上司の署長も当然草食獣のバッファローである。

 後半に登場する「最終決戦」の舞台である博物館の展示にも注意すると、興味深い事実が色々と見えてくる。民主政以前の王政においては肉食獣ではなく草食獣の象が王であったらしいし、石器時代に槍を発明したのは草食獣であり、「素手」の肉食獣をうさぎ等が集団で武装し狩っていたのだ。まるで帝国主義の時代にイギリスの白人がアフリカの黒人を近代的な武器で打ち破り植民地を獲得し支配してきた歴史のように。

 実際ディズニーは制作当初は、肉食獣=被差別マイノリティであるという描写をもっとドギツくおこなっていたらしい。肉食獣はなんと、興奮すると電気ショックで懲罰される「テイム・カラー」という首輪をつけられているという設定だったというのだ。

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 ディズニーによる詐欺を見抜き、この「肉食獣こそが実は被差別弱者マイノリティ」であるという事実に気付くことができると、物語は180度全く違うものに見えてくる。そしてもう一度見直すべく映画館に足を運びたくなること必然だ。