社会問題に繋がる描写が満ち溢れたズートピア


 ズートピアのプロデューサーは、「主人公を含む全てのキャラクターに偏見を抱かせることが、とても重要だった」と語っている。しかしその「全てのキャラクター」には、実は我々観客までもが含まれているのである。

映画『ズートピア』:クラーク・スペンサー(プロデューサー)&ジャレド・ブッシュ(脚本/共同監督)ロングインタビュー

 ズートピアにはこれ以外にも、ディズニーが客の偏見や差別心を利用して「真の意味」をわざとわかりにくくしている所が山のようにある。我々観客は、「肉食獣は強く草食獣は弱い」「サバンナはアフリカの遅れた地域」「マフィアのボスは大男」等の偏見を持って生きており、そして映画館にズートピアを見に来る。そうした各種の偏見を捨てていくことによって本作の隠された「真の意味」を次々と発見して楽しみ興奮することができるのである。

「ズートピア」(C)2016 Disney. All Rights Reserved. 大ヒット上映中
「ズートピア」(C)2016 Disney. All Rights Reserved. 

 言い換えるとズートピアは、観客に「偏見を捨てて見ないとこの物語の真の面白さに気付けないよ」と強いる作りになっているのだ。そして我々がそれに気付き偏見を捨て面白さを知ったという快感を実際に体験させることで、「差別や偏見を捨てるとこんなに面白いし世界の見方が広がったでしょ?」と微笑みかけているのである。

 差別をやめた時の快感を実感できる映画などというものがこれまであったであろうか?ズートピアはそれほど凄い作品なのだ。

 ズートピアがサヨクやリベラルに対するアンチテーゼになっている点は他にも多いし、アメリカの実際の人種差別問題に重なる描写も溢れている。例えば物語のキーを握る羊族は実は、よーく見るとただの草食動物(白人)ではなく、同じ白人でもネズミやうさぎ等WASPに比べて恵まれぬプアホワイトを表しているらしい。つまり、一見単純な「肉食獣vs草食獣」の差別問題を描いているように見える本作であるが、実はそんな簡単な話ではないのである。本来の敵は豊かな草食獣(白人)なのに、より弱い被差別マイノリティの肉食獣(黒人)を敵視しKKKのような組織まで作ってしまうというやりきれぬ哀しさ。差別問題の深刻さを示すそんなプアホワイトの姿まで盛り込んでいるのだから徹底している。

 このように、ズートピアには現在進行形の社会問題にダイレクトに繋がる描写が満ち溢れている。今アメリカ大統領選にて吹き荒れているトランプ旋風を説明することさえ可能だ。そうした隠された真実を一つ一つ探り発見していく快楽の強烈さで満たされているのがズートピアなのだ。

 ここまで読んで頂き、あなたが詐欺師ディズニーの仕掛けた罠を見破る悦楽に浸りたくなったのならば、今すぐ映画館に足を運んで欲しい。

 そしてズートピアを見終わった方は、ネタバレゆえに本稿では書けなかった数多の真実を私のツイッターでつぶやいているので、是非訪れて、自分に偏見がまだ残っていないかどうかチェックしていただきたい。「やっぱり差別や偏見はいけないよね」と感動し泣きながら映画館を出てきたはずのあなたでさえ「え、自分はまだこんなに偏見にまみれていたのか!無意識の差別心は怖い!」とショックを受けるに違いない。

  無論以上の考察は「多様性」を重んじるディズニー作品についての私的な一仮説に過ぎない。十人十色、見る人によってまた違う解釈が出てくるに違いない。うさぎと狐が全く同じ考え方をする必要などない。ズートピアで暮らす動物たちのように、みんな違って良いじゃないか!

  いずれにせよディズニーはこう言ってあなたを待っているのだ。「差別と偏見を捨てないと、僕らが作った夢の国ズートピアに入れてあげないよ!」と。

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