世界情勢の緊迫が『ズートピア』を生んだ


『ズートピア』は寓話である。人間の一切登場しない動物たちだけが暮らす大都市「ズートピア」は、肉食動物と草食動物、大型動物と小型動物等々、根本的に生態が違う動物たちが暮らす”理想郷=ユートピア”の象徴である。

 その理想郷で突如沸き起こる排外主義と動揺。主人公でウサギの「ジュディ・ポップス」は新米警察官として「種族間のヘイト」を煽る巨大な陰謀にキツネの相棒・ニックと共に立ち向かっていく。

 白眉なのは主人公のウサギが全面的な正義ではないこと。このウサギにも無意識の差別感情が存在することが劇中、鋭利に指摘される。それを乗り越え、受け入れること、融和することでキツネのニックと最高のコンビを形成する様は、『マイアミ・バイス』や『110番街交差点』など、往年の”人種を超えた”最高のバディ・ムービーの系譜をもれなく踏襲するものだ。
「ズートピア」(C)2016 Disney. All Rights Reserved. 大ヒット上映中
「ズートピア」(C)2016 Disney. All Rights Reserved. 
「多文化共生」とは、耳に柔らかい美辞麗句である。「移民」先進国であるヨーロッパの事例を見れば一目瞭然のように、先住者と移民のとめどない憎悪の応酬は、具体例を挙げるまでもなく現在進行形で繰り返されている。

「移民」に免疫の薄い日本人は、このような欧州(あるいは米国)の先行事例から学び取ることはあまりにも多い。日本が今後、多文化共生という「ある種の理想」とどう折り合いをつけるのかは明瞭ではないが、『ズートピア』の示すテーマは、そのテーマソング「Try everything」というタイトルからも自明のように、試行錯誤の後にあるべき人類の理想形を追い続けるものだ。

 たとえそれが綺麗ごとであっても、たとえそれが到底実現不可能な理想であっても、誰かが言い続けなければ世界は変わらない。まさにキング牧師の「I have a dream.」の名演説である。現下の世界情勢を鑑みた上の、ある種の強烈な危機感が、ディズニーをして『ズートピア』を創らせたのだろう。その試みは敬意に値する。

 そしてそれは人間ではなく、どうしても動物に置き換えなければならなかった。なぜなら人間世界はそれほどまでに荒み、憎悪に満ちているからだ。この物語は動物の話にしなければ、とても寓話としての訴求を持ちえないと判断したのだろう。それほどまでに現下の世界は多文化共生が不可能になりつつある危機的情勢だからである。