学生にも「聞かない権利」?(野口)
お前たちに人権なんかない(野々村)


野口 余談ですが、教育の荒廃といえば、まだ人格もできていない子供の頃から「人権」や「権利」を持ち出すのも問題ですね。

野々村 私はかつて、全校集会で生徒に、「お前たちに人権なんかないよ。そんなもの、俺は絶対に認めない」と言ったことがあります。生徒だけでなく先生までもが「えっ?」という顔つきになりましたが、かまわず私はこう続けた。「しかしお前たちに人格が備わってきたら、人権を認める。そして学校は、お前たちの人格をつくり、磨く場所なんだ」と。

野口健氏
野口 まさに正論。野々村監督のような先生が全国の小・中・高校にもっと大勢いたら、教育の荒廃なんて言われることもなかったでしょう。価値の多様化とか、個性を伸ばすとか言って最低限のマナーすら身につけさせないから、自己中心的な無人格者が育ってしまう。

野々村 実際、高校に入学してくる生徒をみると、いったい小中学校でどんな教育をしてきたんだろうと首をかしげたくなる子が少なくないですね。しかも年々ひどくなっている。

野口 そういう生徒も、高校までは先生がガツンとやればギリギリ変われる。現に私自身がそうでした。だけど大学生になってしまうと、もう手遅れのような気がします。私が受け持っている大学の講義で、一人の男子学生が大幅に遅刻して入室してきたことがありました。しおらしくしているならともかく、ハンバーガーか何かを頬張りながら、平然と私の前を通り過ぎていく。

野々村 どうしようもないですね。大学生だと殴り飛ばすわけにもいかないし…。

野口 ええ。しかし、その学生は席に着くや否や隣の女子学生とペチャクチャおしゃべりをはじめたので、さすがに私もキレてしまい、「立て!」 と怒鳴りつけたんです。学生は「えっ、オレのこと?」みたいな表情で、どうして自分が立たされるのか分かっていない。私は、「お前に選択肢を二つやる。この場で俺にぶん殴られるか、その場でずっと立っているかだ」と言いました。ここまでくると学生も、私が本気なのが分かってシュンとなりましたが、反省しているようには見えませんでしたね。講義が終わって自室に戻ると、早速ホームページに書き込みが寄せられましたが、高校生のような素直さはない。「ああいうやり方は人権無視だ」とか、「学生にも聞かない権利がある」といったコメントばかり。私は「権利というものは自分でつくるものだ。今の君たちにはない」と返信しましたが、果たして理解してくれたかどうか…。

野々村 親に食わせてもらい、大学にまで行かせてもらっているという自覚がないんですよ。大学生なら二十歳前後、時代が時代なら結婚もし、子供がいてもおかしくない年齢です。何だか日本人がだんだん幼児化していくような気がしてならない。

野口 一方、さすがだなあと思うのは自衛隊。江田島の海上自衛隊幹部候補生学校に招かれた時のことですが、午前が遠泳の訓練で、午後が私の講義というスケジュールだったので、候補生はみんな眠そうにしている。しかし江田島には青鬼、赤鬼と呼ばれる教官がいて、眠ったら大変です。だから船を漕ぎそうになっている候補生を仲間の候補生がシャーペンでつついたり、自分で手の甲をつねったりかじったりして、懸命に目を開け、聞く姿勢をとっている。その様子が妙に清々しくて、講義が終わった後、教官に大学生の「聞かない権利」の話をしたんです。そしたら教官がただひと言、「野口さん、学生に権利はございません」。私はそれでいいと思う。

野々村 それでいいんです。