痛みとともに気持ち伝えて(野々村)
柔道家らしくない匿名告発(野口)


野口 話を体罰に戻しましょう。桜宮高校の事件に続いて、全日本柔道女子の園田隆二監督の指導が暴力的だというので大問題になりました。強化指定選手五十九人のうち十五人が匿名で告発したため明らかになったことですが、この問題について野々村監督はどう思いますか?

野々村 園田監督はとても情熱的な指導者だと聞いていますが、十五人もの選手が暴力だと告発したのなら、やはり指導に問題があったと言わざるを得ません。お前のために手を上げるんだ、この一発がお前のためになるんだということが、しっかり伝わっていなかった。

野口 園田監督も辞任の記者会見で「一方的な信頼関係だった」と反省していましたね。

野々村 そう。スポーツ指導において手を上げる時は、痛みとともに気持ちを伝えなければならない。痛みだけでは暴力です。叩かれた側が単なる暴力と感じてしまったら、指導のやり方として失敗なんです。

野口 ただ、批判を恐れずに言うならば、匿名というのはどうか。正々堂々の武道精神にはそぐわないような気もするのですが…。

野々村 確かにそうですね。それに彼女たちはもう子供じゃない。立派な大人だ。

野口 ええ。指導に問題があれば泣き寝入りせず、告発するのも一つの手段でしょう。だからこそ柔道家として、責任ある大人として、名乗り出てほしかった。そうでないと具体的にどんな指導がいけなかったのか、きちんと検証できませんから。告発した選手に不利益があってはなりませんが、それを大義名分とし、匿名の主張を鵜呑みにして一切の反論を許さないマスコミ報道は問題です。もしも名乗り出たことによって代表選手から外されたなら、そのときこそ柔道連盟などの不当を徹底追及したらいい。匿名の告発を奨励するような社会は、とても危険ですよ。

2012年のプロ野球日本シリーズ第2戦、巨人・沢村拓一投手(左)の
頭を叩く阿部慎之助捕手=2012年10月28日、東京ドーム
(撮影・中鉢久美子)
野々村 それは危険だ。共産主義の独裁国家と同じ体質になってしまう。そもそもマスコミは、学校教育における体罰と、スポーツ指導における体罰を混同していますよ。悪いことをしたら行うのが前者の体罰ですが、スポーツ指導においては集中力を高めるために行われる。例えば大事な試合で緊張してしまい、ガチガチに固くなったり頭の中が真っ白になったりする選手がよくいます。彼らに「落ち着け」と言ってもなかなか耳に届かない。そんなとき、バシッと叩いて「しっかりせい!」と言うと、はっと目を覚ましたように顔つきが変わり、「はいっ、頑張ります」と自分を取り戻す。

野口 昨秋のプロ野球日本シリーズ第二戦で、ジャイアンツの沢村拓一投手が集中力を欠いてサインを見落としたとき、阿部慎之助捕手がマウンドに近寄って、沢村投手の頭をバシッと叩きましたよね。それまで沢村投手はデッドボールを繰り返すなど乱調気味でしたが、その一撃で別人のように立ち直り、無失点の好投で勝利投手になった。

野々村 あの時はマスコミも、阿部が沢村を叩いたことを美談として報じたんですよね。

野口 批判的な報道はなかったと思いますよ。今だったら暴力捕手にされてしまうかも知れませんが…(苦笑)。

野々村 高校野球でも、一発のビンタが試合を変えるということはよくある。もっとも監督は、勝つためだけに部員を叩いたりはしません。一番いけないのは、頭が真っ白なまま試合を終わらせること。部員は三年間、この一戦のために厳しい練習を耐え抜いてきた。それなのに、試合後「よく覚えていません」ではあまりにかわいそう。負けてもいいから悔いの残らない試合をさせてあげたい。そう思って手を上げるんです。

野口 なるほど。マスコミなどはスポーツ指導における体罰を、勝利至上主義が生み出した弊害と決めつけますが、悔いを残さないためにという側面もあるんですね。ところで、練習中でも手を上げることはありますか?

野々村 集中力を欠いていたらね。心ここにあらずで練習しても上達しません。時間の無駄であり部員のためにならない。怪我の原因にもなります。ただ、口で言って分かるときは叩きませんよ。逆効果になることもある。部員を叩く以上、それが部員にとってプラスになるかマイナスになるかを見極めなければならない。桜宮高校の事件は、その見極めが不十分だった。それがあのような悲劇につながったのだと思います。