若年層の自殺増加に歯止めを(野口)
「命」の対極にある「死」も直視(野々村)


野口 桜宮高校の事件について不謹慎だと非難されるかも知れませんが、もしもひと昔前の、「巨人の星」のようなスポ根マンガが受け入れられていた時代だったら、あのキャプテンの未来も変わっていたのではないかと思わざるを得ません。

野々村 一般論として、子供たちの耐性が弱まっているのは確かです。温室育ちで一度もおなかをすかした経験がない、危険な目に遭ったこともないという環境にあって、何が何でも生き抜くんだという荒々しさが決定的に欠けている。

野口 内閣府の自殺対策白書によると、日本では十代後半から三十代前半の死因のトップが「自殺」で、先進国の中では最も若者の自殺率が高いそうです。しかも若者の自殺は最近ますます増えている。文部科学省は「命を大切にする教育を」とお題目のように唱えますが、理屈だけで子供たちの耐性を強めることなどできませんよ。

野々村 そうですね。「命の大切さ」ではなく、 「命」そのものを感じさせなければならない。そのためには、「命」の対極にある「死」を直視させることも必要です。私は開星高校(島根県)で野球部をゼロからつくって、六年目に甲子園出場を果たしたものの、その後はなかなか結果を出せないでいた。すっかり自信を失いかけた平成十三年の春、思い切って部員を江田島に連れて行き、一週間の合宿を行いました。

野口 野球部の合宿を江田島で?

野々村 夏の大会をひかえた大事な時期でしたが、技術面の向上よりメンタル面を強化したかった。そこで部員に海上自衛隊の訓練や、特攻隊の遺書などが展示されている「教育参考館」を見学させたのです。その効果は予想以上で、部員たちはとくに、特攻隊の遺書に激しく心を揺さぶられたようでした。野球がしたくても出来ない時代に生まれ、自分たちとそれほど変わらない年齢で家族のため、国家のために笑って散っていった若者たちがいたことを知り、部員たちは、この尊い犠牲の上に自分たちがいることを、だからこそ一生懸命生きなければならないことを学んだのです。その年の夏、私たちは念願の甲子園切符を手にしました。以来、春休みの江田島合宿は開星高校野球部の恒例行事になっています。

野口 成績はどうです?

野々村 江田島合宿をはじめてから平成二十三年までの十年間で、春夏合わせて九回の甲子園出場。

野口 それはすごい。

野々村 平成十九年夏にようやく甲子園での初勝利を挙げましたが、その試合後、エースの部員がマスコミの取材に、「僕たちは特攻隊精神を学んでいたから死にもの狂いで頑張れた」などと答えているのを聞いて、私の指導法は間違っていなかったと実感した。もっともこのコメントは、主催の朝日新聞はもちろん一般紙には全く掲載されず、スポーツ紙が一紙だけ取り上げただけでしたが…(苦笑)。