基礎的財政収支(プライマリーバランス)の黒字化にはさして大きな意義はない。財政の深刻な状況を回避したければ、名目成長率を上げ(生活実感でいえば給料やバイト代の上昇だ)、名目金利と同じかそれを上回ればいいだけである。ちなみに現状の国債金利はマイナス圏であり(例:新発10年国債利回りではマイナス0.095%)、デフレ脱却後も安定的推移になる蓋然性が極めて大きい。プライマリーバランス自体の黒字・赤字の目的化に固有の意義が認められないとする議論は別サイトでの論説に書いたので参照されたい。

 したがって名目成長率が年3%程度で安定的に推移すれば、プライマリーバランスの黒字化も早期に達成できる。安倍首相自身も今回の記者会見で指摘したようにここ数年の21兆円になる税収増は、この名目成長率の増加による貢献である。

 このようにプライマリーバランスの黒字化を、2020年にこれを達成できるかどうかは、経済的な重要性はまったくないが、政治的な意味はあるのだろう。

 この「政治的必要」を真にうけてみて、2020年度のプライマリーバランスの黒字化は成功するだろうか? 嘉悦大学の高橋洋一教授は、最新刊『マイナス金利の真相』(KADOKAWA)で、消費増税を行えば(内閣府の予測とは異なり)2020年度の黒字化は失敗しかなりの赤字になること、さらに消費増税を見送れば2020年度の赤字はほぼゼロになると指摘している。

 マーク・ブライス教授(米ブラウン大学)は、著書『緊縮策という病 「危険な思想」の歴史』(NTT出版)の中で、好不況に関係なく拡張的な緊縮政策の方が財政赤字を解消できるという「危険な思想」について批判を書いている。

 ブライス教授の解説によれば、むしろ「経済成長なくして財政再建なし」なのだ。IMFの若手研究者たちは、財政状況の改善は、増税によるのではなく、(改善がみられた年度に)先立つ経済成長率が上昇していること、そして中央銀行(日本では日本銀行)が積極的な金融緩和政策を行うことで、金利を押し下げる効果と国債の買いオペによって、事実上の政府の負債を「圧縮」することによってもたらされたとした。

 現状のような経済低迷のリスクの高いときに、消費増税などを行うことはかえって財政再建を遅らすことになるのだ。

 この点は日本のマスコミ、識者、政治家や財務官僚に決定的に欠けている認識である。経済の情勢を無視した「緊縮病」こそ、日本の経済的不幸の根源である。消費増税を「新しい判断」で先送りすることは、「緊縮病」との戦いにおいて最低限必要なことである。

 ちなみに日本銀行の積極的な金融緩和政策(インフレ目標と質的・量的緩和)によって、政府の負債の「圧縮」効果は目覚ましいものがあり、名目成長率の上昇による税収増なども含めて、日本の純債務はアベノミクス起動時の約200兆円から半分程度の約100兆円まで「圧縮」されている。

 しばしばマスコミや世論でも、財務省のコントロールがきいているのか、どんな経済状況でも「2020年までプライマリーバランスの黒字化を目指すのが財政再建だ」とか「消費増税をしないと社会保障が拡充できない。なので増税を先送りにすると社会保障が大幅カットされる」などと思い込んでしまっている。