このことを端的に示すのが図表1だ。この図表1は、国債残高比率(名目GDPに対する名目国債発行残高の比率)での推移を示したもので、これは先の東京財団の長期推計で重視されていた指標の“現実の動向”である。中央大学の浅田統一郎教授による優れたマクロ経済の教科書である『マクロ経済学基礎講義 第3版』(中央経済社)では、この国債残高比率が近年急増しているのは、まさに財務省の消費増税路線=「緊縮病」と、日本銀行のデフレ放置によるものであったことを解説している。
図表1
 浅田教授の解説を簡単に紹介すると、1980年代に低位安定していた国債残高比率が1997年以降急速に増加に転じたのは、財務省(当時は大蔵省)によって主導された3%から5%への消費増税引き上げが原因である。この97年以降から、日銀がコントロール可能なマネーの成長率が極めて低く、また財務省と政府がコントロールしている名目政府支出の成長率も極めて低くなった。まさに「緊縮病」に日本は罹患した。日本銀行はマネーをしぼり、政府・財務省は公共支出を減少し続けた。

 浅田教授は以下のように書いている。

 「消極的な財政金融政策によって引き起こされる経済停滞により、国債残高比率の分母である名目GDPが増えなくなってしまうということが主な原因」であった。

 このように東京財団の長期財政予測と称したモデルは、日本の政策議論にかえって誤解をもたらしかねない。実際に先の新聞報道はそのような誤解の典型だ。

 東京財団のモデルでは、報道などでも解説されていたように、消費増税の延期は国債残高比率を発散させることに貢献してしまう。しかし現実の経済をみれば、今回の消費増税延期は、むしろ経済の大きさを安定化することで、財政危機的状況を回避するだろう。

 また将来的な消費税率の引き上げもマクロ経済への影響を無視してはいけないことになり、これも東京財団モデルでは除外されていることだ。さらに同様のことが、医療費の自己負担の増加についてもいえる。自己負担額の増加も増税と同じ緊縮的な方向に寄与するだろう。

 要するに東京財団モデルの特徴を誤解して利用するマスコミなども問題だが、そもそもこの予測モデル自体が政策ベースで使えない代物なのだ。

 過去20年にわたって行われてきた経済政策論争は、「社会保障の拡充」や「財政危機」を錦の旗(=言い訳)にして、財務省や日本銀行の主導のもとに一貫して緊縮病的な政策思想にふりまわされてきた。今回の財務省的「クソゲー」騒動には、この緊縮病がいまだに健在であり、社会的なエスタブリッシュメント(官僚や官僚的組織、マスコミ、そしてアカデミズムなど)の中にがっつり根をおろしていること、それを退治するにはまだまだ困難が待ち受けていることを証明している。