首相の信認揺らぐ?「パナマ文書」


 離脱派を勢いづかせたのが、タックスヘイブン(租税回避地)の法人に各国首脳やその親族らが関わっている実態を暴露した「パナマ文書」だった。亡父が租税回避地に設立・運営した投資ファンドによって利益を得ていたことをキャメロン首相が認め、首相官邸前で退陣要求デモが起こるなど2010年の政権発足以来の最大の危機を迎えた。首相は財政健全化を掲げて国民に厳しい緊縮を強制させ、主要国首脳会議などで国際的な課税逃れ対策の必要性を主張してきただけに、首相自身が富裕層相手のタックスヘイブンで利益を得ていたことへの国民の怒りと不信が高まり、支持率と求心力は一気に低下した。

 EU残留を訴える首相が国民の信認を失えば、投票の行方に大きく影響を与える。このためキャメロン首相は、この問題で指導力を発揮せざるをえない立場に置かれ、訪英した安倍晋三首相に、伊勢志摩サミットで課税逃れ対策を議論するよう伝達。5月12日、ロンドンで世界の汚職や腐敗根絶を話し合う「腐敗防止サミット」を開催して、タックスヘイブンの透明性向上策とペーパー会社の規制強化策を表明するなど信頼回復に躍起となった。


スコットランド独立


スコットランド民族党のスタージョン党首(ロイター=共同)
 一方、親EU的なスコットランドでは、連合王国からの離脱を主張してEUへの加盟存続を求めるナショナリズムが台頭している。スコットランド民族党(SNP)党首でもあるスタージョン首相は、英国の国民投票でスコットランドの意に反してEUからの離脱が決まれば、独立の是非を問う住民投票を再度行なう方針を表明。5月のスコットランド議会選挙の公約に盛り込んだため、英国が離脱を選べば、EU残留を求め分離独立運動が再燃することは必至だ。独自通貨をもたないスコットランドは独立した場合、EUの統一通貨ユーロを想定。独立すれば、EUに残留する意向だ。スコットランド分離独立の動きが投票行動に影響を与える可能性がある。スコットランド独立を回避するためEUに残る選択もありうるからだ。

 英世論調査会社「ユーガブ」の5月の調査によると、残留支持が42%、離脱は40%で拮抗している。英国はイングランドとスコットランドの2つのナショナリズムにさいなまれ、連合王国はナショナル・アイデンティティの危機に直面している。

 与党保守党内で、8人の閣僚を含む保守党議員の約半数、一般党員の約70%が離脱を支持して多くの“反乱”者を出したキャメロン首相の求心力低下は避けられず、僅差で残留を果たしたとしても早期に党首交代を余儀なくされる可能性もある。党内支持を固め、首相を続けてEU加盟国の信頼を回復するには国民投票で「完勝」するしかない。国際社会が注視するなか、茨の路に立たされたキャメロン首相の前途に暗雲が垂れ込めている。

おかべ・のぶる 産経新聞ロンドン支局長。1959年生まれ。81年、産経新聞社に入社。モスクワ支局長、社会部次長、社会部編集委員、編集局編集委員を歴任。2015年12月より、ロンドン支局長。著書に、『消えたヤルタ密約緊急電』(新潮選書/第22回山本七平賞)、『「諜報の神様」と呼ばれた男』(PHP研究所)がある。